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2012年 06月 08日

ブランショ『謎のトマ』初版本ついに完訳:弊社出版物の著者や訳者の方々の最近の御活躍

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★モーリス・ブランショさん(著書:『問われる知識人』『ブランショ政治論集』『書物の不在』)
デビュー作小説『Thomas L'Obscur』の1941年版(初版本)の、篠沢秀夫さん訳がついに発売になりました。「訳者あとがき」によれば、篠沢さんは1991年3月から1992年3月までのあいだ、パリで生活。知り合いの画家さんからの紹介でブランショに手紙を出し、『謎のトマ』初版本の日本語訳を許諾する手紙が92年2月にブランショ本人から届きます。当時ブランショは85歳。日本語訳を許すが、改訂版を無にしないで欲しい、と書かれてあったそうです。要するに、初版本だけが読まれたり論じられたりするのは好ましくないということだろうと思います。帰国後、篠沢さんは翻訳を開始。2009年、76歳の折に篠沢さんはALS(筋委縮性側索硬化症)と診断されます。『謎のトマ』全15章のうち、11章まで訳し終えていらしたそうです。退院後に作業を再開、日々翻訳し続けられました。帯文にある通り、まさに「渾身の訳業」です。

謎のトマ
モーリス・ブランショ(Maurice Blanchot: 1907-2003)著 篠沢秀夫(しのざわ・ひでお:1933‐)訳
中央公論新社 2012年6月 本体2,800円 四六判上製280頁 ISBN978-4-12-004388-8
帯文より:ヌーヴォ・ロマンの先駆となった幻の鮮烈デビュー作(初版)を初邦訳。死を抱いて生きる無限の反復を描く、哲学的ミステリーの全貌がいまここに顕われる!

※「訳者あとがき」でも言及されていますが、篠沢さんによるブランショの著作の翻訳には、代表的なものは二つあって、『至高者』(現代思潮社、1973年)と、「文学と死への権利」(白井健三郎編『現代人の思想(2)実存と虚無』所収、平凡社、1967年、308-349頁)です。さらにもうひとつ、『ラスコオの野獣』(窪田般彌編『世界詩論大系(1)現代フランス詩論大系』所収、思潮社、1964年、221-231頁)があります。こちらは小さい著書のためか、言及されていません。これらも中公さんが文庫などで再刊してくださると嬉しいですね。

※なお、天沢退二郎訳『至高者』(筑摩書房、1970年)は、書肆心水さんで再刊されることが以前から予告されています。書肆心水さんでは「謎の男トマ」改訂版の翻訳を収録した『ブランショ小説選』(2005年)も出されていますが、現在は一時品切。白井編『実存と虚無』は編者による巻頭の長篇解説をはじめ、ハイデガーやサルトル、カミュ、ブランショ、バタイユ、カフカ、埴谷雄高などの重要テクストが読めるてんこ盛りの素晴らしいアンソロジーです。「文学と死への権利」は「紀伊國屋書店の了解により新訳」とクレジットされています。『ラスコオの野獣』の底本は58年に刊行された限定版。ルネ・シャールの詩「いうも恐ろしい野獣」(『餌食と牧場』所収、1952年)へのオマージュです。


★ジャン=ジャック・ルソーさん(著書:ウェブ連載「化学教程」)
白水社さんの新シリーズ「白水iクラシックス」内の「ルソー・コレクション」の第二弾『文明』が発売されました。同コレクションは白水社の『ルソー全集』からの改訳再編集版。第一弾は『起源』でした。今回の『文明』は文明、震災、戦争をめぐる論考を収録。「学問芸術論」「政治経済論(統治論)」「サン=ピエール師の永久平和論抜粋」「永久平和論批判」「戦争状態は社会状態から生まれるということ」「戦争についての断片」「戦争についてのほかの断片」「サン=ピエール師のポリシノディ論抜粋」「ポリシノディ論批判」「ポリシノディ論についての断片」「ヴォルテール氏への手紙――一七五五年のリスボン大震災をめぐる摂理論争」の11編が収められています。巻頭には選者である川出良枝さんの導入「文明」、巻末には同氏による詳細な解説「悪に抗する人間――文明・震災・戦争」が収録されています。同コレクションでは今後、『孤独』『政治』の巻が刊行される予定。

文明
ジャン=ジャック・ルソー著 山路昭+阪上孝+宮治弘之+浜名優美訳 川出良枝選
白水社 2012年5月 本体3,000円 四六判並製326頁 ISBN978-4-560-09602-4

※なお、「白水iクラシックス」では今月、ヘーゲル『キリスト教の精神とその運命』(細谷貞雄+岡崎英輔訳、長谷川宏解説)、来月はアルベール・マチエ『革命宗教の起源』(杉本隆司訳、伊達聖伸解説)を刊行予定です。また、同社では最近、ミシェル・アンリ(1922-2002)の遺著である福音書読解本『キリストの言葉――いのちの現象学』(武藤剛史訳)を発売。さらに今月はワイリー・サイファー『文学とテクノロジー――疎外されたヴィジョン』(野島秀勝訳、高山宏解説)が、シリーズ「高山宏セレクション〈異貌の人文学〉」としてついに再刊。初版は1972年、研究社出版。このシリーズ、高山さんがお選びになるだけにすごいラインナップになりそうですね。


★中山元さん(訳書:ブランショ『書物の不在』)
新訳本第三分冊、マルクス『資本論 第1巻 III』が発売されました。今回収録されているのは、第4篇「相対的増殖価値の生産」第13章から第6篇「労働賃金」第20章まで。全4分冊ですから、残すはあと第4分冊のみ。2年前に当ブログで、ウェーバー『プロ倫』の中山さんによる新訳をご紹介した際に、「中山さんが将来的に『資本論』の新訳を手掛けられるようになったとしても、生産力から考えてもう不思議ではありませんね」と書いたのですが、本当にそれは実現し、なおかつもうそろそろ完結しそうだというのがすごいですね。帯の煽り文句「フリーター必読のマルクス流賃金論」が熱いです。

資本論――経済学批判 第1巻 III
カール・マルクス著 中山元訳
日経BPクラシックス 2012年5月 本体2,000円 4-6変型判上製480頁 ISBN978-4-8222-4880-2
帯文より:産業革命が資本と労働の関係にもたらした大きな変革を描く。「大工業の出発点となるのは、労働手段の革命であった。変革された労働手段がもっとも発達したのが、工場において構造化された機械システムである」(第13章「機械類と大工業」)。

※なお日経BP社さんでは今月、コンピュータ史上の金字塔であるアラン・チューリングの論文「計算可能数とその決定問題への応用」(1936年)についての詳細な注釈解説本、チャールズ・ペゾルド『チューリングを読む――コンピュータサイエンスの金字塔を楽しもう』(井田哲雄ほか訳)が刊行されました。チューリング・マシンの原点がここにあります。チューリングの論文の翻訳はなかなかありませんが、「知能機械、異教の論理」(1954年)が、『原典メディア環境 1851-2000』(東京大学出版会、2001年)に収録されています。それにしても、サラ・チューリング『アラン・チューリング伝――電算機の予言者』(渡辺茂+丹羽富士男訳、講談社、1969年) は再刊されませんね。ちくま学芸文庫のMath & Scienceシリーズあたりで企画にあがっていてもおかしくない気がしますが。
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by urag | 2012-06-08 18:39 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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