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2012年 05月 06日

注目新刊:2012年4月~5月

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鳥の言葉――ペルシア神秘主義比喩物語詩
アッタール=著 黒柳恒男=訳
東洋文庫(平凡社) 2012年5月 本体3,000円 全書判上製318頁 ISBN978-4-582-80821-6
帯文より:ペルシアの神秘主義詩人アッタールの代表作を本邦初訳。様々な比喩、物語、逸話によって神秘主義思想を表現。神である霊鳥を探し求めて、鳥(神秘主義者〔スーフィー〕)たちがたどる苦難に満ちた旅。

目次:
第一章 書の初め
第二章 鳥たちの集合・会議
第三章 シェイフ・サムアーンの物語
第四章 鳥たちとヤツガシラの問答
第五章 谷の描写
第六章 スィーモルグの御前の三十羽の鳥〔スィー・モルグ〕
解説(訳者)

★まもなく発売。ボルヘス『幻獣辞典』(晶文社、1974年;1998年)を読んだ方にはおなじみの「シムルグ」の話。ありがたくもペルシア語原典からの翻訳がついに刊行されました。世界に秩序と規律をもたらすべく不在の王を探しに飛び立った鳥たちが様々な艱難を乗り越えて宮殿に辿りつくと、王の驚くべき正体に気づかされる、というお話し。ボルヘス経由で結末を知っていてもやはり最後は感動的ですし、結末を知らない方は、知らないままに読んだ方が得です。最初は大勢だった鳥たちが次第に少なくなり、わずかな仲間を残すのみになるその過程を読む者もまた、鳥たちの一員となって空を翔けます。ついに王と対面する時、あたかも読者自身もその場面に立ち会っているかのような高揚感があります。アッタール(1142c-1230c)の既訳書には散文作品の『イスラーム神秘主義聖者列伝』(藤井守男訳、国書刊行会、1998年)があります。なお、6月の東洋文庫新刊は『新訳 ラーマーヤナ』第二巻。


ジャマーノ編集長 学術論文出版のすすめ
ウィリアム ジャマーノ=著 松井貴子=訳 原田範行=解題
慶應義塾大学出版会 2012年4月 本体3,800円 A5判並製274頁 ISBN978-4-7664-1939-9
帯文より:「すぐれた論文」は「すぐれた本」になりうるか? コロンビア大学出版局の元編集長が、学術出版のイロハを分かりやすくユーモアを交えて解説。すぐれた学術書を執筆する秘訣を“出版社の目線”から伝授する、研究者と編集者必携の書。日本の学術出版界事情を補足する解題(原田範行)付き。

原書:Getting it Published: A Guide for Scholars and Anyone Else Serious about Serious Books, 2nd edition, The University of Chicago Press, 2008.

目次:
第二版への著者まえがき
第一章 本を出版するということ
第二章 出版社の仕事
第三章 原稿を書く
第四章 出版社を選ぶ
第五章 出版社に接触する
第六章 編集者が求めているもの
第七章 原稿評価のプロセスを勝ち残る
第八章 出版契約を結ぶ
第九章 コレクションとアンソロジー
第十章 引用、掲載図版など
第十一章 原稿を引き渡す
第十二章 原稿がたどる道
第十三章 電子出版とは何か
第十四章 次回作に向けて
終章

★発売済。英米語圏と日本では出版の市場規模が違いますし、たとえば出版契約や著作権の法令など国によって文化的に異なりますから、デリダやスピヴァクなどを手掛けた海外の名編集長と言っても実務的には参考にならないのではないか、などと出版人はつい先入観で思ってしまうわけですが、これはなかなか、いや、かなり親切な本です。出版社が著者に期待していることは本書でほとんどすべて把握できるだろうと思います。むろん、本書を掲げて「日本の出版社はこの通りにやってないんじゃないか?」と詰め寄られても困るわけですが、国境を越えても真であることももちろんありますから、研究者にとっては充分な予習になるはずです。また、出版人にとっても自分の仕事を「海外水準」から評価し直す良い機会になるだろうと思います。論文の書き方についてのハウツー本は色々ありますが、学術系出版社との付き合い方をこと細かく伝授するお節介な(良い意味で)類書はほとんどないですから、本書はこの手のスタンダードとして長らく重宝するのではないでしょうか。


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同一性の謎――知ることと主体の闇
ピエール・ルジャンドル(1930‐)=著 橋本一径=訳 
以文社 2012年5月 本体2,200円 46判上製120頁 ISBN978-4-7531-0301-0 
帯文より:私が私であるのは何故か? 人間自身の未知なる秘密を出発点に、科学や経済を陰で支える〈法〉のメカニズムを明るみに出し、西洋的制度の核心に迫る。現代思想の要である「ドグマ人類学」の創始者が高校生に向けて語る格好の入門書。

原書:La Balafre:À la jeunesse désireuse..., Mille et une nuits, 2007.

目次:
はじめに 意欲ある若者たちへ
向こう傷
 I 第一の方向
 II 第二の方向
応用編
 I 自らを認識する
 II ユダヤ=ローマ=キリスト教のシナリオからの派生物
 III 理論的な広がり
イコノグラフィ
訳者あとがき

★発売済。今までに刊行された訳書のうちもっとも短い内容であり、なおかつ高校生相手の講演ということで、帯文にある通りルジャンドルのドクマ人類学への「格好の入門書」とみなされうるかと思います。ただし、日本のではなくフランスの高校生ですから、日本の場合、実際は大学生以上でないと読みにくいかもしれません。「これから私がみなさんに提案するのは、道を踏み外す練習、ただそれにつきます。この練習は容易なものではありません。私たち一人ひとりが、自分の習慣的なバランス、つまり先入観や思いこみと、一時的に縁を切ることが求められます」(14頁)とルジャンドルは語りかけます。西洋文明の定礎と同一性をめぐる法学史的考察の原野へと向かうその踏み外しは独特ではありますが、それは文明を突き動かす古い約束事の庭に至るための王道でもあります。その庭から見える景色はいわば舞台裏から見る〈文明という装置〉であり、またとない道案内としてルジャンドルが読者を惹きつけてやまない魅力はまさに歴史を透視するその視点に存するのだろうと思います。


全-生活論――転形期の公共空間
篠原雅武(1975‐)=著 
以文社 2012年4月 本体2,400円 46判上製225頁 ISBN978-4-7531-0302-7 
帯文より:私たちはなぜ自らの「痛み」を言葉にするのをやめてしまったのか? 新進気鋭の思想家が、自身の感覚を研ぎ澄まし、「生活の哲学」の蘇生に賭けた、渾身の書き下ろし!

目次:
序章 生活の失調
第一章 公共性と生活
第二章 装置と例外空間
第三章 誰にも出会えない体制
第四章 開発と棄民
第五章 生活世界の蘇生のために

本文(序章)より:本書は、生活という組織体が壊れ、失調し、荒んでいくということを、全体性の死滅という観点から、論じていこうとするものである。全体性とは、生活という組織体を織り成すさまざまないとなみを、集め、関係づけ、出会わせ、織り成していく作用であり、はたらきのことだ。こうした意味での全体性があってはじめて、生活は、組織体となり、存続可能なものとなる。/……ひそやかに、だが着実に現れつつある何ものかの断片を関係づけ、織り成していくための全体性は、これから新たに発案し、創出していかなくてはならないたぐいのものだ。それは、……表向き明るさを装わされつつ束ねられ硬化と停滞を強いられている生活を解きほぐすところに、回復され、蘇生することになるだろう。

★発売済。『公共空間の政治理論』(人文書院、2007年)、『空間のために――遍在化するスラム的世界のなかで』(以文社、2011年)に続く、単独著第三弾です。現代人の生のあちこちに走っているほころびや亀裂と向き合うことを自らに課しつつ、それでもなお生きていくために、単に生きるのではなく共に創造し蘇生するために、手さぐりで、手作りで、先行者たちの遺した「点」を結んでいく本書は、あるいは読むことの痛みを読者に課すものでありながら、温かく優しく未知の読者へと語りかける誠実な本になっていると思います。著者が取り上げる現代人の傷の来歴はしばしば、読者にとっては目をそらしておきたい生々しいものです。それだけに、それだからこそ、本書は哲学思想書売場の日本現代思想の棚で強力な磁力を発揮し、本書で言及された書籍や思想家をもっとも活きいきした関係性の新しい網目へと再編成する核となりガイドとなるのではないかと予感させます。担当編集者はMさん。Mさんは3月に矢部史郎さんの『3・12の思想』を手掛けたばかり。机上の空論ではないアクチュアルな思想書を読みたい方は、このMさんの仕事を逐一チェックされていることと思います。
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by urag | 2012-05-06 03:59 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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