2012年 04月 15日

注目新刊:『戦後部落解放運動史』『都市が壊れるとき』

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戦後部落解放運動史――永続革命の行方
友常勉(1964-)著
河出ブックス 2012年4月 本体1,300円 B6判並製232頁 ISBN978-4-309-62441-9
帯文より:「水平社宣言」90年――反差別の苦闘が問うもの。輝かしくきびしい戦いの希望と絶望、その可能性から近代をこえる思想をさぐる。
カバー(表1)紹介文より:かつて社会をゆるがした被差別部落民の闘いは何を問いかけたのか。戦後から現在にいたる様々な経験を思想的に検証するかつてない果敢な試み。
カバー(ソデ)紹介文より:「人の世に熱あれ、人間に光あれ。」――水平社宣言にはじまり差別糾弾闘争、そしてその限界を突破した七〇年代の狭山闘争をへて、反差別を全社会に波及させたあと、新たな模索の時代にはいった被差別部落民の闘いは何を問いかけているのか。その戦後から現代まで、運動、行政、文化などの各領域の経験を思想的に検証しながら、〈デモス〉=排除された民の宣言の可能性に迫る、俊英による、いまだ誰もなしえなかった果敢な試み。

目次:
はじめに
第一章 戦後部落解放運動の検証のために
第二章 狭山闘争の思想史
第三章 芦原病院小史――同和行政の総括のための試論
第四章 〈黒い翁〉の発見
第五章 地域社会の未来
終章 『ふつうの家』と『地の群れ』
引用・参考文献一覧
あとがき

★発売済。友常さんの単独著の三冊目になります。巻頭に「戦前の日本の社会主義革命(および民族民主革命)の枠組みに規定されてきた戦後部落解放運動史を、もう一度資本主義社会における前近代的な身分制度の存在というアポリアと、そのアポリアに直面した主体の形成を中心に読み直すこと。これが本書の目的である」(7頁)と書かれています。さらに各章については「第一章で「オール・ロマンス事件」から同和行政の開始時期まで、第二章で狭山闘争、第三章で大阪の芦原病院問題を中心にした同和行政論、第四章で中上健次、村崎修二らの被差別の文化論、芸能論と、その復活の試み、そして第五章で一九七四年に集中した浪速闘争、八鹿闘争が提起している論点、また東日本の部落問題と残されている課題について論じている」(15頁)。

★東日本大震災と原発事故の経験を経て、著者は「政治権力の奪取を自己目的化せず、不断に国家と交渉し、国家を相対化し、それと対峙する社会運動の在り方について考えざるをえなくなった」(223頁)と「あとがき」で述懐しています。本書の議論は濃密であり、急がずゆっくり読むべきものです。同和問題について予備知識がない場合は、著者が「はじめに」の注で薦めている黒川みどり『近代部落史――明治から現代まで』(平凡社新書、2011年)を併読するといいかもしれません。「差別という収奪は不断に静かに起きている」(211頁)と著者は書きます。職業や出自によって社会の片隅に追いやられていた人々の慟哭と労苦は、当事者でないかぎり想像すら難しいのかもしれませんが、人々が紆余曲折を経て社会に取り込まれてもなお(取り込まれるからこそより)執拗に残る差別は、人が人とどう向き合い、どう共に生きるかという問題を根源的に問い返してやみません。

★東京外国語大学出版会(および大学付属図書館)の機関誌「pieria」の2012年春号「新しい世界との邂逅――外大生にすすめる本/世界の詩とめぐりあう」において、同大学の国際日本研究センター専任講師をつとめる友常さんは「運命にあらがう人々の〈身体の内乱〉」をテーマに次の三冊を学生の皆さんに薦めています。高橋和巳『邪宗門』(上下、朝日文芸文庫、1993年)、金薫『孤将』(蓮池薫訳、新潮文庫、2008年)、和合亮一『詩の礫』(徳間書店、2011年)。詳しい選書コメントは本誌をぜひご覧ください。

◎友常勉 (ともつね・つとむ:1964-)単独著既刊
『始原と反復――本居宣長における言葉という問題』三元社、2007年7月
『脱構成的叛乱――吉本隆明、中上健次、ジャ・ジャンクー』以文社、2010年10月
『戦後部落解放運動史――永続革命の行方』河出ブックス、2012年4月


都市が壊れるとき――郊外の危機に対応できるのはどのような政治か
ジャック・ドンズロ著 宇城輝人訳
人文書院 2012年4月 本体2,600円 4-6判上製236頁 ISBN978-4-409-23048-0
帯文より:街を揺るがした、「くず」どもの怒りの理由は何か――2005年におけるパリの暴動後に書かれた、フランス社会学の泰斗による迫真の分析。
帯文(裏表紙)より:貧困、人種、民族によってフランスの都市は、もはや共和主義の理念とは程遠いまでに分断されている。郊外に貧困と暴力とともに取り残される若者、田園地帯の新興住宅地に逃げ込む中産階級、官と民により再開発される都心…。この分断を乗り越え、もう一度都市を作り直すことはいかにして可能か。本書は、フランス都市政策の挫折の歴史をふまえ、その困難な道を指し示す、フランス社会学の泰斗による迫真の分析である。それは、経済格差の拡大と貧困、都市および地域コミュニティの荒廃、そして移民労働者の受け入れに揺れる日本社会にとっても、有益なものとなるだろう。

原書:Quand la ville se défait: Quelle politique face à la crise des banlieues ?, Seuil, 2006.

目次:
まえがき――あぶれからくずへ
序章
第一章 都市問題――都市を分離する論理の出現
第二章 都市に対処する政策――社会的混合の名における遠隔作用による住居対策
第三章 都市を擁護する政策――移動性を促し、居住者の実現能力を高め、都市を結集するために
結論――都市の精神
訳者解説 有機的連帯から都市の精神へ
翻訳対応表/年表(フランスにおける郊外暴動と都市政策略史)/人名索引

★19日(木)取次搬入です。ドンズロの訳書が出るのは実に20年ぶり。本書の「まえがき」を人文書院のウェブサイトで読むことができます(書名のリンク先をご覧ください)。その書き出しはとても印象的です。「くず〔ラカイユ〕。郊外の若者たちを目がけて血気にはやる内務大臣〔当時、内務大臣だった現大統領ニコラ・サルコジのこと。郊外暴動での強硬姿勢が翌々年の大統領選での勝利に結びついたといわれる〕が放ったこの否定的な言葉は、若者たちが棄て置かれていると感じていたあらゆる団地で、三週間にわたる夜間暴動の嵐をひきおこすのに充分であるだろう。たしかに、若者たち自身この語を使っていた。だがそれは自嘲心のなせるわざだったのだから、かれらを指すのに本気で使ってはならない言葉だった。たとえそんな言葉であったにしても、たった一言で暴動を増長させてしまったのは、まさに現況確認のしかたが暴動を準備していたからである。だがそれはいつからなのか。どのくらい前から自嘲と公的軽蔑が希望と理解に勝るようになったのだろうか」(5頁)。

★「絶望の台頭」(12頁)とドンズロが端的に評した状況に若者たちが浸されているのはフランスに限った話ではなく、先進諸国や日本においても見られることです。ドンズロはまた、「中流階級の不満が同じく「許容限度」の閾を越えた外郊外では、かれら中流階級は、泥舟と化した社会的上昇モデルにますますしがみついて暮らしており、下からのグローバリゼーションの脅威と、上からのグローバリゼーションの受益者から浴びせられる軽蔑とのあいだに捕らわれて右往左往している。この不満は、棄て置かれた街区の暴動ほど目立たないように見えるが、基本的にいって、人口のこの部分〔中産階級〕が極左か極右に投票する傾向を強めていることから判断すれば、おそらく重要でないとはいえない」(58頁)とも書きますが、日本の状況も大して変わりません。社会問題のあらわれとしての都市の荒廃を分析し、都市再生を模索する本書は、民主主義の内実とまちづくりのありようをめぐる問いとして読者に熟慮を促すでしょう。

◎ジャック・ドンズロ(Jacques Donzelot: 1943-)既訳書
『家族に介入する社会――近代家族と国家の管理装置』ジル・ドゥルーズあとがき、宇波彰訳、新曜社、1991年11月
『都市が壊れるとき――郊外の危機に対応できるのはどのような政治か』宇城輝人訳、人文書院、2012年4月
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by urag | 2012-04-15 18:48 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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