2012年 03月 25日
★今回は4月10日発売予定の『獄中記』のほか、今月刊行の注目新刊数点をご紹介します。 獄中記 大杉栄著 大杉豊解説 土曜社 2012年4月 ペーパーバック判(172×112mm)並製224頁 ISBN978-4-9905587-2-7 カバー紹介文より:1906(明治39)年、東京外語大を出て8カ月で入獄するや、監修の目をかすめて、エスペラント語にのめりこむ。英・仏・エス語から独・伊・露・西語へ進み、「一犯一語」とうそぶく。生物学と人類学の大体に通じて、一個の大杉社会学を志す。出歯亀君、野口男三郎ら獄友と交際する好奇心満足主義。牢格子を女郎屋に見立て、看守の袖をひく堺利彦は売文社以前。「おい、秋水!」という大杉に気づかず、歩み去る逆徒・幸徳。21歳の初陣から、大逆事件の26歳まで――、自分の頭の最初からの改造を企てる人間製作の手記! ★4月10日発売予定。土曜社の新刊第3弾は、『日本脱出記』『自叙伝』に続く『獄中記』。「大杉栄ペーパーバック版」全3巻完結です。巻末の「大杉栄獄中読書録」に並ぶ和洋の書籍は実に壮観です。その数約150冊。飽くなき探究心は、相手が本であろうが人であろうが関係なく、大杉にとって監獄はまるで社交場であり勉強部屋のようです。版元プレスリリースによれば、本書の見どころのひとつは「語学ができ、人情に通じ、腕っぷしも強い。大杉の人気の秘訣」とのこと。カバーを飾る大杉の肖像画は、その昔、洋画家の林倭衛が書いた「出獄の日のO氏」。警視庁の介入で二科展から撤去された油絵です。 ◎関連イベント 4月17日:中森明夫×坂口恭平「大杉栄を語る」@DOMMUNE 4月30日:大杉豊「大杉栄スライドトーク」@不忍ブックストリート 終わりなきパッション――デリダ、ブランショ、ドゥルーズ 守中高明(1960-)著 未來社 2012年3月 本体2,600円 四六判上製304頁 ISBN978-4-624-01185-7 帯文より:エクリチュールの経験はパッション以外のものではない――デリダやドゥルーズ、ブランショを援用しながら思考し続けた著者渾身の論文集。精神分析をめぐる二論文、パウル・ツェランや吉増剛造、宮澤賢治、アンドレ・ブルトン、ロートレアモンを取り扱った論考や書評、書き下ろしとなる人種主義についての批判的考察を所収。 ★発売済。16篇のうち、掉尾を飾る「ネイションと内的「差異」――天皇制イデオロギーのもとでの在日朝鮮人」が書き下ろしです。2007年8月に書かれたもので、30頁近い長篇。そのほかは1994年から2007年にかけて執筆され発表されたもの。「あとがき」から察するに、当初は全18篇の予定だったようです。守中さんは詩人でもあり、詩集を含めた著書には以下のものがあります。 95年06月『反=詩的文法――インター・ポエティックス』思潮社 97年04月『二人、あるいは国境の歌』思潮社 99年05月『守中高明詩集』思潮社(現代詩文庫) 99年12月『脱構築』岩波書店(思考のフロンティア) 01年11月『シスター・アンティゴネーの暦のない墓』思潮社 04年06月『存在と灰――ツェラン、そしてデリダ以後』人文書院 05年06月『法』岩波書店(思考のフロンティア) 09年07月『系族』思潮社 出版状況クロニクル(III)2010年3月~2011年12月 小田光雄(1951-)著 論創社 2012年3月 本体2,000円 46判並製268頁 ISBN978-4-8460-1131-4 帯文より:大震災前後の出版界。出版物売上高のピークは、1996年の2兆6500億→それが直近の数字では→1兆8700億。書店数のピークは、1986年の1万3000軒→それが直近の数字では→4850軒。その数字が示す“落差”の意味を2年間にわたって探る! ★発売済。一業界人として断言しなければなりませんが、もし出版界のここ5年間の推移を概観したいならば、小田さんの「出版状況クロニクル」既刊3冊を読み、そして同氏のブログで現在も継続して書かれている月次クロニクルを参照するのが一番の近道です。かの松岡正剛さんは「千夜千冊遊蕩篇」で、2009年のクロニクル第一巻を評して「ただひたすらに赤裸々なレポート」と書きました。出版社に就職したいと考えている学生さんにもお薦めします。この業界は全体としては衰退していますが、ニッチは非常にたくさんあります。一見すると新規参入する余地がないほどぎっしりと既成業者が市場を埋め尽くしていますが、見方を変えると笑ってしまうくらい穴ぼこだらけの世界で、アイデア次第ではまだまだ面白いことができるかもしれない場所です。しかし「面白いことができる」のと「商売になる」のとが必ずしも一致しない世界でもあるので、成功するのは容易ではありません。この5年間を見るだけでも、出版界の状況はさらに厳しくなっています。この国の長期的な不景気の縮図の一つが出版界です。本書は絶望のためにあるのではなくて、業界の厳しさを前にどう自分なりに戦いを挑むか、読む者の覚悟が試されるのでしょう。 雇用、利子、お金の一般理論 ジョン・メイナード・ケインズ(1883-1946)著 山形浩生(1964-)訳 講談社学術文庫 2012年3月 本体1,500円 A6判並製572頁 ISBN978-4-06-292100-8 帯文より:この本が、経済学を変え、世界を変えた。正確で明快な新訳で読む社会科学史上の偉業。ジョン・R・ヒックス『ケインズ氏と「古典派」たち』採録。序文:ポール・クルーグマン。 版元紹介文より:物が売れない、職がない――なぜ市場は自由放任では機能しなくなることがあるのか。世界的不況のなか、ケインズは自らも通暁する古典派経済学の誤謬と限界を徹底的に見据え、ついに現代経済学の基礎となる本書に至った。現実世界と向き合い理論をラディカルに更新する、社会科学という営みの理想形。本書の概略を定式化したヒックスの重要論文も採録。 ★発売済。山形さんがネット上で公開している全訳の書籍化です。オンラインやPDFで無料で読めても、文庫だとコンパクトなので「買い」ですね。『一般理論』は数年前にも岩波文庫で新訳が二巻本で出ましたが、山形さん曰く「〔三種類も既訳が存在する〕にもかかわらず訳者が本書の全訳を行ったのは、既存の翻訳がきわめて不満な出来だったからだ。〔…〕翻訳上の誤りも散見されるし、それ以上に三つとも自他共に認める「逐語訳」だ。〔…〕いずれも日本語としてまともに読むのはつらい。〔…〕一般の場面で普通に使われる英語は、なるべく業界のジャーゴンではない、一般の場面で普通に使われる日本語にするのがこの訳書の基本的な翻訳方針だ」(「訳者解説」551-552頁)。難解かつ大冊である本書を通読するのが苦痛な方は、山形さんによるめちゃくちゃスマートで便利な「要約版」をまず読んでおくといいかもしれません。 ★学術文庫の5月新刊で注目したいのは、慈円『愚管抄 全現代語訳・注』(大隅和雄訳)。11日発売です。同日刊行の文芸文庫では『折口信夫芸能論集』(安藤礼二編)と、柄谷行人『反文学論』に注目。 同時代史 タキトゥス(c56-c120)著 國原吉之助(1926-)訳 ちくま学芸文庫 2012年3月 本体1,600円 文庫判528頁 ISBN978-4-480-09435-3 帯文より:殺戮、陰謀、裏切り。暴帝ネロ自殺後の凄まじい政争を迫真の筆致で活写したローマ史の大古典。 カバー紹介文より:暴帝ネロの自殺後、ローマ帝国に泥沼の内乱が勃発した。各地の総督がその配下の軍隊に担がれて、次々に皇帝となったのである。紀元69年1月1日、ゲルマニア軍のウィテッリウスは、ヒスパニア総督である元首ガルバに叛旗を翻す。アレクサンドリア軍からは、ウェスパシアヌスが皇帝として奉戴されていた。その結果、多くの市民の血が流れ、三人の皇帝が斃れた。そこには、人間の欲望が絡みあい、殺戮、陰謀、裏切りなど、凄まじい政争が繰り広げられた。本書は、希代の歴史家タキトゥスが、この同時代の壮大な歴史ドラマを、臨場感溢れる雄渾な筆致で記録したローマ史の大古典。解説:本村凌二。 ★発売済。親本は96年、筑摩書房刊。文庫化にあたって「大幅に手を入れた」とのことです。訳者の國原先生はこれまで、タキトゥスの訳書では『年代記――ティベリウス帝からネロ帝へ』(全二巻、岩波文庫、1981年)、『ゲルマニア/アグリコラ』(ちくま学芸文庫、1996年)を手掛けられています。タキトゥス自身にとっては『同時代史』は『年代記』の前に書かれたものですが、扱っている年代は『年代記』が先、『同時代史』が後です。『年代記』は在庫僅少とのこと(写真のは97年6月の一括重版のもの)。ちくま学芸文庫版『ゲルマニア』は品切。岩波文庫の泉井久之助訳『ゲルマーニア』も在庫僅少だそうです。岩波が何を重版するかはウェブサイトの「復刊」で毎月チェックできますが、筑摩書房の場合は重版情報は書店向けのコンテンツなのですね。一般読者にも公開してくださったらいいのに。ついでに「在庫僅少本」も随時更新で一覧になっていると買い逃し防止になるので、あったらすごくうれしいですね。
by urag
| 2012-03-25 23:57
| 本のコンシェルジュ
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