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2012年 03月 04日

ツェランの改訳決定版詩文集と個人全訳改訂新版

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パウル・ツェラン詩文集
パウル・ツェラン著 飯吉光夫編訳
白水社 2012年2月 本体2,400円 四六判上製202頁 ISBN978-4-560-08195-2
帯文より:未曾有の破壊と喪失の時代を生き抜き、言葉だけを信じ続けた20世紀ドイツ最高の詩人の代表詩篇と全詩論。改訳決定版。
斎藤環(精神科医)推薦文:「「あの日」から私がもとめたのは、死者たちを「悼む」言葉ではない。彼らと「ともにある」ための言葉だ。そこにツェランの言葉があった。絶対的な脆弱、絶望的なまでの希望、そして戦慄的な優しさをはらむ言葉が。

★発売済。前半が詩、後半が散文です。詩は「罌粟(けし)と記憶」から3篇、「敷居から敷居へ」から3篇、「ことばの格子」から5篇、「誰でもないものの薔薇」から3篇、「息のめぐらし」から5篇、「糸の太陽たち」から7篇、「迫る光」から7篇、「雪の区域(パート)」から1篇の、合計34篇。詩論は講演が3本、散文が9本です。明細は版元ウェブサイトで公開されています。巻末には「訳者解説」と「パウル・ツェラン年譜」。

★これまで飯吉さんはツェランの数々の詩集を翻訳されてきただけでなく、それらの詩集から代表作をまとめた詩集を手掛けられてきました。『死のフーガ』(思潮社、1972年)、その改題新版『パウル・ツェラン詩集』(思潮社、1984年)、収録する詩作品が異なり、1篇の講演と2本の散文を加えた『パウル・ツェラン詩集』(小沢書店、1993年)などです。今回の白水社改訳決定版詩文集は、訳者「解説」によれば、「2011年3月11日の東日本大震災後の状況において心に響く詩を、という編集部の要請で、自分なりにそれと関係のあるものを選んだ」とのことです。白水社版に収められた詩作品はこれまでの編訳詩集に比べてそう多くはないものの、その代わり、ツェランの詩論を修正した『パウル・ツェラン詩論集』(静地社、1986年)に収められていたすべての散文が後半に再録されています。これまでの編訳詩集や詩論集はすべて現在では新刊では入手できないので、こうして手頃な詩文集が新たに刊行されたことは入門編として非常にありがたいですね。


パウル・ツェラン全詩集〔改訂新版〕全三巻
パウル・ツェラン著 中村朝子訳
青土社 2012年2月 本体6,800円/6,800円/4,800円 四六判上製函入516頁/696頁/326頁 ISBN978-4-7917-9176-7/978-4-7917-9177-4/978-4-7917-9178-1
第I巻帯文より:本邦初の全詩集。象徴主義やシュルレアリスムの流れに立ち、ユダヤ人としてナチズムの惨禍、スターリニズムの傷痕を心の奥深くに宿しながら、現代詩人の命運を生き、自死した、パウル・ツェラン、本邦初の個人完訳全詩集。
第II巻帯文より:晩年から没後刊行の詩集まで。現実とは何かと鋭く問いかけ、狂気にむしばまれるなかで、詩作によって、あり得ない現実を獲得しようとしたツェラン。晩年に刊行された『息の転換』『糸の太陽たち』、生前既にツェラン自身によって印刷に付された『光輝強迫』、詩人自身の念入りな清書原稿に基づく『雪の声部』を収録。
第III巻帯文より:処女詩集、遺稿・補遺。喪失からの出発。言語の解体。そして誰でもないものへの問い。ツェランの詩は、他者への回路を失った現代人の深部に谺する。処女詩集『骨壺たちからの砂』、『時の屋敷』、『補遺詩篇』などを収録。

★1992年版全3巻の待望の改訂新版です。旧版と同様に第I巻には「罌粟と記憶」「敷居から敷居へ」「言葉の格子」「誰でもない者の薔薇」を収め、第II巻には「息の転換」「糸の太陽たち」「光輝強迫」「雪の声部」を収め、第III巻には「骨壺たちからの砂」「時の屋敷」「補遺詩篇」を収めています。営業部のYさんに伺ったところ、「今回の改訂は、全体に及んでおり、より原文に忠実になるよう全体を翻訳しなおしております。また、訳注も以前より充実しており、組版も以前よりより親しみやすいものとなっております」とのことです。

★今回の改訂新版の刊行を記念して、来週土曜日にリブロ池袋にて以下のイベントが行われます。

中村朝子さん×小沼純一さんトークイベント~パウル・ツェランの魅力をさぐる~

日時:2012年3月17日(土)午後4時~
会場:西武池袋本店別館9階池袋コミュニティ・カレッジ28番教室
チケット:税込1,000円
チケット販売場所:西武池袋本店書籍館地下1階リブロリファレンスカウンター
お問合せ:リブロ池袋本店 電話03-5949-2910

内容:『パウル・ツェラン全詩集改定新版』(青土社)刊行を記念して、全詩集の訳者である中村朝子さんをお招きしてトークイベントを開催いたします。聞き手は批評家であり、詩人でもある小沼純一さん。言葉の力を信ずることが生きる力となるのでは――。3・11以後注目の高まるツェランの魅力を余すところなく語り尽くす1時間。ぜひお誘い合わせの上ご来場くださいませ。イベント参加チケットは先着50名様に販売致します。参加チケットご希望の方はリブロ池袋本店書籍館地下1階リファレンスカウンターにてお求め下さい。

★【2012年4月19日追記】改訂新版についてさらに特記しておきます。まず、今回の改訂新版では「訳語に関しては、今の時点で適切と思われる表現に変えるよう若干の手を加えた。注についても同様に手を入れたが、いくつかの注を新しく書き加えた」(「改訂新版あとがき」323頁)と訳者は書いています。追加した注は二種類あって、まずひとつめは「2003年にドイツで刊行された『注釈つきツェラン全詩集』の注釈に基づいた注」で、「読者がツェランの詩を理解する上で大いに助けとなると考えた注釈を選んで追加した」(同頁)とのことです。ふたつめは92年初版『全詩集』の刊行後に中村さんが青土社より上梓した二つの遺稿詩集『暗闇に包みこまれて』(94年;原書単行本91年)と『パウル・ツェラン初期詩篇集成』(98年;原書単行本89年)での注を、『全詩集』と重複して収録している作品に限って転用したとのことです。

★改訂新版の底本は92年初版と同じ『パウル・ツェラン詩集』(全5巻、ズーアカンプ、1983年)です。ただし、「同全集は2000年にさらに2巻が補充され、全7巻として刊行された。すなわち1938年から1948年の間に書かれたいわば詩人の最初期の詩作品、およびその後に詩人が自死するまでの間に書かれ、未発表のまま残され、5巻本全集に収録されなかった詩作品がそれぞれ一巻ずつに収められ、刊行されて全7巻となった」(324頁)とのことです。しかし今回の改訂新版ではこの2巻は増補されていません。つまりイメージとしては、『暗闇に包みこまれて』や『パウル・ツェラン初期詩篇集成』を買い足せば、全7巻全集に近いかたちになるということであろうと思います。すなわち『全詩集』とは言っても年々進むツェランのテキストクリティークが原因で、遺稿も含めて全作品を漏らさず収録しているわけではないということに注意しなければなりません。

★ズーアカンプでは、1990年から歴史批判版『ツェラン全集』全16巻を刊行し、詩作品部門全14巻が昨年5月までに刊行済です。さらに同版元では96年から2004年にテュ―ビンゲン版『ツェラン全集』全9巻を刊行しています。これは「公表された定稿以前の草稿の変遷を速やかに概観できるよう、草稿を選び、わかりやすく配置した」(325頁)ものだそうです。『全詩集』改訂新版ではこれらの諸版も「できる限り参照した」とのことです。原書だけでも全5巻本(1983年)、全7巻本(2000年)、注釈つき全詩集(2003年)、テュービンゲン版(1996‐2000年)、歴史批判版(1990年~)とややこしいですが、92年初版『全詩集』(訳書)の刊行時点では、歴史批判版(原書)は刊行途中であったため「全詩集」としての体裁の版権は83年全5巻によるほかはなく、また、今回の改訂新版の準備は、歴史批判版が完結する前にほとんど終わっていたため引き続き全5巻を底本としたということだろうと推察できます。歴史批判版は改訂新版でも参照されてはいますがその版権を取って新たに訳し直すというのはまた別の仕事になるわけで、現時点では、日本語訳としては今回の改訂新版をもって最新成果と呼ぶべきでしょう。

★いずれ歴史批判版をもとに全詩集改訳決定版というのが刊行されるのかもしれません。ただ今は改訂新版と、『暗闇に包みこまれて』『パウル・ツェラン初期詩篇集成』の二作でツェランの詩作の全体像を想像するという段階なのかなと思います。遺稿集の2点は残念ながらともに品切ですが、歴史批判版が出ている現在では、単行本版から訳されたこの2点はもはや再刊されないのかもしれません。

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by urag | 2012-03-04 21:35 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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