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2012年 02月 18日

注目文庫新刊:2012年2~3月

★今月来月の文庫本新刊の中から気になる書目を抜き出します。

◎2012年2月
2月1日 草思社文庫『銃・病原菌・鉄(上・下)―― 一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎』ジャレド・ダイアモンド/倉骨彰訳
2月8日 ちくま学芸文庫『「伝える」ことと「伝わる」こと――中井久夫コレクション』中井久夫
2月8日 ちくま学芸文庫『ゴダール 映画史(全)』ジャン=リュック・ゴダール/奥村昭夫訳
2月8日 ちくま学芸文庫『フンボルト 自然の諸相─―熱帯自然の絵画的記述』アレクサンダー・フォン・フンボルト/木村直司訳
2月8日 ちくま学芸文庫『ニーチェ――自由を求めた生涯』ミシェル・オンフレ原作/マクシミリアン・ル・ロワ画/國分功一郎訳
2月9日 ハヤカワ文庫『ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業(上・下)』マイケル・サンデル/NHK「ハーバード白熱教室」制作チーム+小林正弥+杉田晶子訳
2月10日 講談社学術文庫『藤原行成「権記」全現代語訳(下)』倉本一宏
2月10日 講談社学術文庫『ルネサンスの神秘思想』伊藤博明
2月10日 講談社学術文庫『生命の劇場』ヤーコプ・フォン・ユクスキュル/入江重吉+寺井俊正訳
2月10日 平凡社ライブラリー『菊燈台』澁澤龍彦/山口晃絵
2月10日 平凡社ライブラリー『新版 蔦屋重三郎』鈴木俊幸
2月10日 平凡社ライブラリー『精神のエネルギー』アンリ・ベルクソン/原章二訳
2月14日 光文社古典新訳文庫『メノン――徳〔アレテー〕について』プラトン/渡辺邦夫訳
2月14日 光文社古典新訳文庫『悪霊 別巻――「スタヴローギンの告白」異稿』ドストエフスキー/亀山郁夫訳
2月15日 講談社文庫『エクソシストとの対話』島村奈津
2月16日 岩波現代文庫『「知」の欺瞞――ポストモダン思想における科学の濫用』アラン・ソーカル+ジャン・ブリクモン/田崎晴明+大野克嗣+堀茂樹訳
2月16日 岩波現代文庫『帝国と国民』山内昌之
2月16日 岩波現代文庫『「国語」という思想――近代日本の言語認識』イ・ヨンスク
2月16日 岩波現代文庫『増補  自己と超越――禅・人・ことば』入矢義高
2月16日 岩波文庫『日本倫理思想史(四)』和辻哲郎 ※全四巻完結
2月16日 岩波文庫『流刑』パヴェーゼ/河島英昭訳
2月16日 岩波文庫『フランス・プロテスタントの反乱――カミザール戦争の記録』ガヴァリエ/二宮フサ訳
2月16日 岩波文庫『丘』ジャン・ジオノ/山本省訳
2月25日 中公文庫『聴衆の誕生――ポスト・モダン時代の音楽文化』渡辺裕
2月25日 中公文庫『海賊列伝――歴史を駆け抜けた海の冒険者たち(上・下)』チャールズ・ジョンソン/朝比奈一郎訳
2月25日 角川ソフィア文庫『春秋左氏伝』安本博
2月25日 角川文庫(海外)『緋色の研究』コナン・ドイル/駒月雅子訳

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★ゴダール『映画史』は親本では二分冊だっただけに文庫化で合本は嬉しいですね。値段は驚きの2300円(税別)。かの『言海』(2200円)を上回り、ひょっとしてちくま学芸文庫で一番高価な書目になったのでしょうか。先月のルロワ=グーラン『身ぶりと言葉』(2100円)もそうでしたが、文庫本がついに二千円を超える時代になってきましたね。

★フンボルト『自然の諸相』の訳者は、これまで学芸文庫でゲーテの『色彩論』や『形態学論集』『地質学論集』『スイス紀行』などを手掛けられてきた木村直司先生。その地道で堅実な持続力にはただただ敬服するばかりです。博物学者であり探検家のアレクサンダー・フォン・フンボルト(1769-1859)の著書の既訳には、「17・18世紀大旅行記叢書」第二期の『新大陸赤道地方紀行』(全三巻、大野英二郎+荒木善太訳、岩波書店、2001-2003年)があるのみです。

★伊藤博明『ルネサンスの神秘思想』は、『神々の再生――ルネサンスの神秘思想』(東京書籍、1996年)の文庫化。巻頭に置かれた「講談社学術文庫版によせて」では三人の編集者に謝辞が寄せられています。「原著を編集していただいた関正則さんには、あらためて深く感謝申し上げたい。文庫化にあたっては二宮隆洋さんにお世話になり、実務は講談社の園部雅一さんに担当していただいた」。関正則さんは著者の伊藤さんと同い年で1955年生まれ。親本が刊行された96年に東京書籍を退職され、翌年よりこんにちに至るまで平凡社にお勤めでいらっしゃいます。二宮隆洋さんは1951年生まれで、私の記憶が正しければ関さんが平凡社に移籍される少し前に同社を退職され、その後フリーランスの編集者としてちくま学芸文庫や中央公論新社「哲学の歴史」などに助力されてきました。園部雅一さんはは講談社でこれまでに中沢新一さんの『アースダイバー』や、昨年5月に学術文庫で刊行され異例の売れ行きだったという寺田寅彦『天災と国防』などを担当されています。『ルネサンスの神秘思想』が要所で凄腕編集者に支えられてきたことが分かりますね。

★『菊燈台』は「ホラー・ドラコニア 少女小説集成」シリーズのライブラリー化第2弾。小さいサイズになってもやはり雰囲気のある本で、親本を持っている私のような読者も思わず手が伸びます。特にこの巻は、山口晃さんによる挿絵がこの『菊燈台』のための描き下ろしなので、特別な印象が強いです。巻末に新たに加えられたのは、「山口晃をめぐって」と銘打たれた三潴末雄さんによる「国民的画家のもうひとつの天才」と、高丘卓さんによる解題「澁澤龍彦航海記――ホログラム装置」です。来月配本は『狐媚記』(澁澤龍彦/鴻池朋子絵)。

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★ユクスキュル『生命の劇場』は博品社より1995年に刊行された単行本の文庫化。本作はユクスキュル(1864-1944)の遺稿で原題は「全能なる生命」です。博品社は「Documenta historiae naturalium」や「日本の名山」などの素晴らしいシリーズなどを擁していた出版社でしたが92年から99年まで出版活動を続けた後に解散されました。刊行物は自由価格本でジュンク堂書店など一部の書店で今なお扱われていますけれども、さすがに書目は少なくなっています。『生命の劇場』はいつ文庫化されてもおかしくない名作でした。ユクスキュルとゲオルク・クリサートの共著『生物から見た世界』の新訳が岩波文庫で出たのが2005年で、こちらも、思索社版旧訳の刊行年(1973年)から数えると「ようやく」といった感が強かったですね。日本語で読めるユクスキュルの著作はこのほか、思索社版『生物から見た世界』(現在は新思索社の新装版)に収録されている「意味の理論」などがあります。これらはユクスキュル(1864-1944)の著書のほんの一部であり、まだ多数は未訳のままなのが残念です。

★ベルクソン『精神のエネルギー』は新訳。同書の既訳にはこれまでに白水社版『ベルグソン全集』第5巻(渡辺秀訳、1965年)や、レグルス文庫版(宇波彰訳、1992年)があります。現在刊行中の白水社個人全訳版『ベルクソン全集』(竹内信夫訳)でも第5巻として刊行予定です。今回の新訳本の「訳者あとがき」を拝読すると、原さんは本書の続編である『思考と動き』(従来の訳では『思想と動くもの』)の新訳も手掛けて下さるのではないかと期待したくなります。

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★渡辺邦夫訳『メノン』は光文社古典新訳文庫では『プロタゴラス――あるソフィストとの対話』(中澤務訳、2010年)に続く、プラトン新訳の第2弾です。同対話編の既訳は文庫本では岩波文庫版(藤沢令夫訳、1994年)があります。そういえば『プロタゴラス』の岩波文庫版(1988年)も藤沢訳です。今回の『メノン』新訳を手掛けた渡辺さんはちくま学芸文庫より『テアイテトス』(2004年)を上梓されています。こちらは現在品切。なお、新訳『メノン』の巻末に掲載されている古典新訳文庫の続刊予定に、ワイルド『サロメ』の平野啓一郎訳が登場しました。まだ何カ月か先のようですが、楽しみです。

★サンデル『ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業(上・下)』は、早川書房では『これからの「正義」の話をしよう』(2011年11月)に続く、サンデルの文庫化第2弾(他社本も合わせると、『公共哲学』ちくま学芸文庫も含め3点目)。ハヤカワ文庫版『これからの~』の巻末に特別付録として収録されたサンデルの最新刊『それをお金で買いますか――市場主義の限界』(鬼澤忍訳)の序章「市場と道徳」が、今回の文庫版『ハーバード~』の下巻巻末にも併録されています。『それをお金で~』は5月に単行本発売予定。この近刊書の内容は『ハーバード~』の帯では以下のように紹介されています。「私たちは、あらゆるものが売買される時代に生きている。だが今やこの「市場主義」は、教育、医療、政治、家族など、本来ふさわしくない領域にまで及んでいるのではないか? 暴走する市場主義から「善き生」を守るために、私たちにできることは?」と。ちょうど本日NHK総合テレビでは夜9時から10時13分まで特番「マイケル・サンデル 究極の選択――「お金で買えるもの買えないもの」」が放映されました。サンデル教授はNHKではすっかりおなじみの存在になりましたね。


◎2012年3月
3月7日 ちくま学芸文庫『ルーベンス回想』ヤーコプ・ブルクハルト/新井靖一訳
3月7日 ちくま学芸文庫『イメージの歴史』若桑みどり
3月7日 ちくま学芸文庫『同時代史』タキトゥス/國原吉之助訳
3月7日 ちくま学芸文庫『現代数学の考え方』イアン・スチュアート/芹沢正三訳
3月7日 ちくま学芸文庫『鈴木大拙の仏教』鈴木大拙/守屋友江編訳
3月9日 平凡社ライブラリー『政治と思想 1960-2011』柄谷行人
3月9日 平凡社ライブラリー『科学的精神の形成』ガストン・バシュラール
3月9日 平凡社ライブラリー『狐媚記』澁澤龍彦/鴻池朋子絵
3月10日 講談社文芸文庫『アレゴリーの織物』川村二郎
3月13日 講談社学術文庫『近代日本思想の肖像』大澤真幸
3月13日 講談社学術文庫『雇用、利子、お金の一般理論』ジョン・メイナード・ケインズ/ジョン・リチャード/ポール・クルーグマン序文/山形浩生訳
3月13日 講談社学術文庫『西洋中世の罪と罰――亡霊の社会史』阿部謹也
3月16日 岩波現代文庫『田辺元・野上弥生子往復書簡(上・下)』竹田篤司+宇田健編
3月16日 岩波現代文庫『評伝 今西錦司』本田靖春
3月16日 岩波文庫『祭りの夜』パヴェーゼ/河島英昭訳
3月16日 岩波文庫『フィレンツェ史(上)』マキァヴェッリ/齊藤寛海訳
3月16日 岩波文庫『善の研究』西田幾多郎
3月24日 角川ソフィア文庫『世界神話事典――世界の神々の誕生』大林太良+伊藤清司+吉田敦彦+松村一男編
3月24日 角川ソフィア文庫『世界神話事典――創世神話と英雄伝説』大林太良+伊藤清司+吉田敦彦+松村一男編
3月24日 角川ソフィア文庫『詩経・楚辞』牧角悦子
3月24日 角川ソフィア文庫『精神分析入門(上・下)』フロイト/安田徳太郎+安田一郎訳
3月28日 新潮文庫『無限の網――草間彌生自伝』草間彌生

★平凡社ライブラリーのバシュラールは新訳なのか、あるいは既訳の文庫化なのかは未詳です。既訳には『科学的精神の形成――客観的認識の精神分析のために』(及川馥+小井戸光彦訳、国文社、1975年) があります。バシュラールの文庫本はこれまですべてちくま学芸文庫から刊行されてきました。

04年12月『夢想の詩学』及川馥訳
02年10月『空間の詩学』岩村行雄訳
02年01月『新しい科学的精神』関根克彦訳
99年08月『夢みる権利』渋沢孝輔訳

恐ろしいことに、『空間の詩学』以外は品切。親本を持っているからと買わずに油断していると痛い目にあいます。筑摩書房さんにおかれましてはぜひ岩波文庫同様に春秋の年2回に復刊をイベント化してくださることを熱望してやみません。無謀なことを言えば、もし私がもう一社、出版社を興すとしたら、品切絶版文庫の再刊復刊(紙と電子版の両方)に特化した文庫専門版元をつくります。投資されるべき有意義な文化事業だと常々思うのですけどね。

★岩波文庫の『善の研究』は1979年第48刷改版以来のリニューアルになるようです。これまでは下村寅太郎さんの解説が巻末に収められていましたが、今度の改版では注解と解説を藤田正勝さんが担当されるとのことです。かつて私が買った頃(87年第59刷)は消費税導入前で450円でした。それが2008年には760円。今度の改版では840円。時代の移り変わりのなかで物価上昇はやむをえませんが、すでに著作権フリーとなっている本書がもう二度と500円以内には戻れないのでしょうか。今度の改版の注解を、小坂国継全注釈版(講談社学術文庫、2006年、本体1100円)と読み比べてみたいと思います。
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by urag | 2012-02-18 00:10 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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