2012年 02月 01日
月刊「みすず」誌の2012年1・2月合併号は毎年恒例の「読書アンケート特集」号です。店頭発売は今日明日以降となるようです。弊社刊行物を取り上げて下さった先生方のコメントをご紹介します。 ◆ジュディス・バトラー『自分自身を説明すること』2008年8月 石原千秋先生(日本近代文学、早稲田大学教授) 大学院生のリクエストで読書会を行った本。「自分自身を説明する」ためにはアイデンティティが求められるが、それがいかに不可能かをもがくように語っている。バトラーの本だと思うと、それは社会に向けて女性が「自分自身を説明する」ことの不可能性を語っているように感じる。 ◆ジャン・ジュネ『公然たる敵』2011年3月 新城郁夫先生(沖縄・日本文学、琉球大学教授) 抵抗する人々の美しさに不意打ちされることの衝撃を、政治的暴力への「暴力」的でさえある問いのなかに結晶化させていくジュネの思考のみずみずしさにおののく。抵抗への共振のさなかに出現するエロス的な衝迫を、時代の影のなかに解きはなっていくジュネの思索は、難問を喚起しつづけ、常に新しい。巻末の「解題と注」そして「訳者あとがき」の充実も見事。 ◆近藤和敬『構造と生成(I)カヴァイエス研究』2011年12月 金森修先生(哲学、東京大学大学院教授) フランス・エピステモロジーの重要人物であるにもかかわらず、レジスタンス活動のせいで銃殺されて経歴が中断したこと、さらには難解な数理哲学者であることなどから充分な研究が進んでいなかったカヴァイエスに関する、ほとんど突然の、しかも俊英による本格的な研究書である。数学的認識を一種独自な〈経験〉として捉え、その経験相のありようについて、緻密な腑分けを試みる野心作だ。普通のメタ数学的、数学基礎論的問題構制とは質的に異なる新たな視点が輪郭づけられている。それにしても、これからが楽しみな若手の登場だ。出版社の良心も光る。こんな時勢に心が洗われる。 十川幸司先生(精神分析家・精神科医) ずいぶん昔、後期ラカンの数学の問題を研究していた頃から、その悲劇的な死ばかりが注目されているカヴァイエスという哲学者の存在は気になってはいたが、その思想の内実はよくわからないまま放っていた。著者は、カヴァイエスの「操作」概念に注目し、それを「数学的経験」の範例と考えることにより、「数学的経験」を真理の自律的顕現の経験として明快に示している。この著作は、反時代的にも見えるが、きわめて重要で、今日的な仕事である。 +++ なお、ジュンク堂書店池袋本店の1Fでは、今回の「みすず読書アンケート」を元にしたブックフェアがまもなく始まる予定です。また、今月5日発行となるジュンク堂書店さんの月刊誌「書標」2月号に、難波店店長の福島聡さんが『カヴァイエス研究』の書評を書いて下さいました。未発行のため、写真は1月号を写したものです。同誌はジュンク堂書店さんのウェブサイトでPDFが無料配布されています。以下に福島店長の書評をご紹介します。 レジスタンス活動の結果四一歳でナチスに処刑された数理哲学者ジャン・カヴァイエスの、本邦初の研究書。著者近藤によれば、カヴァイエスは、現代フランス哲学に大きな影響を与えた、「ミッシングリンク」というべき存在である。 カヴァイエスにとって、数学だけが唯一、真理の経験を可能にし、真理をこの世界で主題的に現実化することを許されている。それゆえ彼は、合理性の問題を根本からかんがえなおすために、みずから進んで困難を極める現代数学の分析へと進んで行ったのだ、と近藤は言う。 だが、カヴァイエスは、数学の世界に沈み込んだわけでは決してない。数学者が「地面のしたに潜り真理を発掘」し、超越論的哲学者が「空のうえから真理のはてを俯瞰する」のに対し、概念の哲学者は、そのあいだにあって、「その運動それ自体を生け捕り」にしようとする。 重要なのは、必然的で超越的な数学的真理が「すべてを一挙に開示するしかた」ではあたえられず、われわれが「現に手にしている真理から出発して、新たな真理を獲得する」こと、そのことが絶えず、終わることなく続いていくことである。 その突然の死によって中断されたカヴァイエスのプログラムは、豊饒な可能性へと開かれ、実際、陽に暗に彼を参照する多くの名だたる哲学者によって引き継がれていった。そのことを知悉しながら、本書においては敢えて徹底してカヴァイエス自身のテキストに踏みとどまる近藤の思索も、同様に豊饒な可能性へと開かれ進展していくことが期待できる。 +++ また、先日ご紹介しましたが、紀伊國屋書店新宿本店5F人文書売場では2011年に刊行された人文系新刊の中から読者投票でベスト30点が決定し、今月いっぱいまでブックフェア「紀伊國屋じんぶん大賞2011――読者がえらぶ人文書ベストブック」が好評開催中です。このベスト30の中に弊社の出版物2点がランクインしており、次のように評していただきました。いずれも文芸書寄りの本なので、選んでいただいたことに新鮮な驚きがありました。 第20位『公然たる敵』(ジャン・ジュネ著、アルベ−ル・ディシィ編、3月刊) 木村洋志さんによる選評: 同性愛と死。『花のノートルダム』や『ブレストの乱暴者』などで書き続けたテーマはまさにこの二つに尽きる。けれども晩年間際に残した発言・テクストを網羅した本書を読むと、この二つの問題は序章にしか過ぎなかったのだと思い呆然とする。ジュネは敵対性の真っ只中で生まれる数々の諸問題に関わり、それでもそこに自分の求める完全な敵がいないことを嘆く。 とにかく本書序文に一度目を通して頂きたい。その瞬間敵はもう目前に迫っているのだ。 第29位『ガセネタの荒野』(大里俊晴著、7月刊) 竹花進さんによる選評: 伝説のバンド・ガセネタメンバーによる、狂った青春の日々をつづった伝記小説。掛け値なしに面白いとはこのこと。このプラトニックさは、あの凶暴な音楽へ、最短距離で線を引く。音源からはいるもよし。いずれにせよ、この青春を知らずしてなるものか。
by urag
| 2012-02-01 19:13
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