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URGT-B(ウラゲツブログ)

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2012年 01月 30日

2012年1月の注目復刊など

読書人にとって「絶版のない世界」は理想です。電子書籍時代が本格化すればそれが到来するかと言えば、しかし、そんな簡単なものではありません。品切になって久しい書目を出版社は苦心して復刊に漕ぎつけようとしますが、本が出版された経緯というのは一冊ずつ異なりますから、どれもこれも復刊できるという単純なものではないのです。水面下でいかに出版社がもがいているか、その実態はなかなか見えにくいところではあります。比較的に世間様にも御承知いただいているはずの事業としては、人文系の版元8社が毎年行っている「書物復権」があります。現在「第16回」がリクエスト募集中。こうした「共同一括復刊」のほかに、通常の毎月の新刊でも再刊や復刊は色々な形態で出ています。ごく最近発売されたその一部をご紹介します。

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渡辺慧(1910-1993):著
河出書房新社 2012年1月 本体2,500円 46上製368頁 ISBN978-4-309-24573-7
帯文より:時間の不可逆性はなぜ生じるのか? ド・ブロイ、ハイゼルベルク、ボーアに、師事・親交した量子力学の輝ける巨星による「時間論」の金字塔! 「理論的僥倖と呼ぶべき読書体験であり、まさに、天啓にうたれたような感動であった」(大澤真幸・解説より)。
本文より:アインシュタインの相対性理論が、時間の観念に革命をもたらしたことは周知のことである。また量子理論が因果律の理解を変革することを余儀なくせしめたことも知られている。しかし、この量子理論が時間の問題に関して全く新しい観点をひきおこしつつあることを知るものは少ない。それは確かに相対性理論がもたらした革命より遙かに深刻な哲学的影響を伴う革命であるのだが。

★発売済。初版は74年刊。今回、大澤真幸さんの18頁にわたる解説「明日の日の出を祈る神官/「死」を否定するアインシュタイン」を冒頭に付した復刻新版が刊行されました。創業125年である昨年から開始された名著復刊事業「KAWADEルネサンス」の一環です。


西郷信綱著作集(2)記紀神話・古代研究II 古代人と夢 
西郷信綱:著
平凡社 2012年1月 本体9,000円 A5判上製函入452頁 ISBN978-4-582-35706-6
帯文より:古代人にとって、世界はどんな構造をしていたか? 「夢」を回路に、忘れていた今を想い出すように古代人の世界連関を探った傑作『古代人と夢』、生と死、大地、魂、王権をめぐる姉妹編『古代人と死』を収録。

★発売済。第6回配本です。『古代人と夢』は初版が1972年刊の平凡社選書で、93年に平凡社ライブラリーの記念すべき1冊目として再刊されています(解説=市村弘正)。『古代人と死』は初版が99年刊の平凡社選書、2008年に平凡社ライブラリーで再刊されています(解説=大隅和雄)。

◎西郷信綱著作集(全9巻)
第1巻「記紀神話・古代研究I 古事記の世界」本体9000円、2010年12月刊(第1回配本)、ISBN978-4-582-35705-9 解説=三浦佑之
第2巻「記紀神話・古代研究II 古代人と夢」2012年1月刊(第6回配本)、ISBN978-4-582-35706-6 解説=磯前順一
第3巻「記紀神話・古代研究III 古代論集」本体9000円、2011年06月刊(第4回配本)、ISBN978-4-582-35707-3 解説=大隅和雄
第4巻「詩論と詩学I 萬葉私記・古代の声」本体9000円、2011年02月刊(第2回配本)、ISBN978-4-582-35708-0 解説=阪下圭八
第5巻「詩論と詩学II 梁塵秘抄・斎藤茂吉」次回(第7回配本)、2012年4月予定
第6巻「文学史と文学理論I 詩の発生」本体9000円、2011年10月(第5回配本)、ISBN978-4-582-35710-3 解説=龍澤武
第7巻「文学史と文学理論II 日本古代文学史」本体9000円、2011年04月刊(第3回配本)、ISBN978-4-582-35711-0 解説=秋山虔
第8巻「文学史と文学理論III 古典の影」未刊
第9巻「初期論考・雑纂」未刊


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ジェローム神父
マルキ・ド・サド:著、澁澤龍彦:訳、会田誠:絵
平凡社ライブラリー 2012年1月 本体1,400円 HL判上製128頁 ISBN978-4-582-76754-4
版元案内文より:トリエステ、ナポリ、パレルモ──若い娘や少女たちに悪の姦計が迫る。〈サディズム〉の語源・サド侯爵の禁断の物語が、澁澤龍彦の名訳と、現代美術を震撼させる会田誠の幻想の絵巻で甦る。

★発売済。画壇の最先端と澁澤の文学世界との見事なハイブリッドと美しい造本で、ゼロ年代の新たな書物のキュレーションの地平を開いたあの「ホラー・ドラコニア少女小説集成」が、平凡社ライブラリーになって帰ってきました。しかも、同ライブラリーの「Offシリーズ」の一部でしか見たことがなかったハードカバーの上製本です。親本は2003年。澁澤のエッセイ「異常と正常」は親本と同様、巻末に収録。ライブラリー化にあたって、さらに巻末に二篇の新規エッセイが収められています。「会田誠をめぐって」と銘打たれた、ミヅマアートギャラリーの三潴末雄さんによる「現代文明の闇を見つめる確信犯」と、責任編集者の高丘卓さんによる解題「澁澤龍彦航海記――船出まで」です。親本では別刷の「月報」に、美術史家の山下裕二さんによる「貴族と俗衆――澁澤龍彦と会田誠の挿絵をめぐって」と、高丘さんの編集後記「高丘親分出帆顛末記」が掲載されていました。親本の順番と同様に、来月は『菊燈台』(澁澤龍彦:著、山口晃:絵)がライブラリー化第二弾として発売されるそうです。なお、3月のライブラリー新刊としては、ベルクソン『精神のエネルギー』も予告が出ています。

◎ホラー・ドラコニア少女小説集成
1 『ジェローム神父』サド:著、澁澤龍彦:訳、会田誠:絵、2003年9月;平凡社ライブラリー、2012年1月。
2 『菊燈台』澁澤龍彦:著、山口晃:絵、2003年11月;平凡社ライブラリー、2012年2月予定。
3 『淫蕩学校』サド:著、澁澤龍彦:訳、町田久美:絵、2004年1月。
4 『狐媚記』澁澤龍彦:著、鴻池朋子:絵、2004年3月。
5 『獏園』澁澤龍彦:著、山口晃:絵、2004年5月。


心理学的類型
ユング:著、吉村博次:訳
中公クラシックス、2012年1月、本体1,550円、新書判並製224頁、ISBN978-4-12-160131-5
帯文より:主体と客体、意識と無意識、内向型と外向型・・・。心的なはたらきの分析。

★発売済。親本は中公バックス版『世界の名著(76)ユング フロム』(1979年)。さらに遡ると、同巻は函入ハードカバー版『世界の名著』では「続14」巻(1974年)でした。「世界の名著」ではユングの「心理学的類型」抄訳と、フロムの「正気の社会」のカップリングでした。ユングは序言、第4章、第10章、むすび、を訳出した抄訳。今回のクラシックス版では巻頭に19頁にわたる河合俊雄さんによる解説が付されています。同書の完訳版としては、『心理学的類型』(全2巻、佐藤正樹・高橋義孝ほか訳、人文書院、1986年6月-87年7月)と『タイプ論』(林道義訳、1987年5月、みすず書房)があります。前者は品切ですが、ここしばらくのあいだ人文書院さんが進めてきた「ユング・コレクション」の復刊の中には残念ながらまだ入っていません。中公クラシックスは今年で創刊10周年だそうです。長く続いてほしいと切に願っています。

by urag | 2012-01-30 01:06 | 本のコンシェルジュ | Comments(0)


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