2011年 12月 11日

危機の時代にこそ読みたい古典:アドルノとシュトラウスの新刊

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自律への教育
テオドール・W・アドルノ(Theodor W. Adorno, 1903-1969)著 原千史+小田智敏+柿木伸之訳
中央公論新社 2011年12月 本体3,200円 A5判上製232頁 ISBN978-4-12-004315-4

帯文より:抵抗への教育――アドルノ本気の実践活動。学校における教育、そしてメディアを通じた教育はいかにあるべきか。4つの公演と4つのインタヴューからなる本書は、教育やメディアに関心を寄せている人たちはもちろん、アドルノの思想に初めて触れる人たちによって、今なお読み継がれている。実践に対して禁欲的と見られてきた従来のアドルノ像に修正をせまる重要な記録でもある。

原書:Erziehung zur Muendigkeit, Suhrkamp, 1971.

目次:
序文(ゲルト・カーデルバッハ)
1 過去の総括とは何を意味するのか
2 哲学と教師
3 テレビと教育
4 教職を支配するタブー
5 アウシュヴィッツ以後の教育
6 教育は何を目指して
7 野蛮から脱するための教育
8 自律への教育
訳者解説 マイクに向かうアドルノ
アドルノ年譜
アドルノ主要著作

★先週後半に発売になったばかりの新刊です。9月に刊行されたカントーロヴィチ『皇帝フリードリヒ二世』に続く、シリーズ「メディアシオン」の第二弾。担当編集者のGさんによる、シリーズの趣旨については拙ブログ記事「カントーロヴィチの大著『皇帝フリードリヒ二世』ついに刊行!」をご覧ください。同シリーズの続刊予定にF・A・イエイツ『ジョン・フローリオ』があることをお明かしになっています。さて今回の新刊『自律への教育』はアドルノの死後に刊行されたもので、いずれもヘッセン放送のラジオシリーズ「現代の教育問題」で60年代に放送された講演や対談、鼎談の記録です。ラジオ番組のオリジナルは5の講演と、3のヘルムート・ベッカー/カーデルとの鼎談、6~8のベッカーとの対談で、1、2、4が番組とは別に1959年から65年にかけて講演されたものを後日放送したもの。1と2は既訳が『批判的モデル集I――介入』(大久保健治訳、法政大学出版局、1971年)に、4と5の既訳は『批判的モデル集II――見出し語』(同上)に掲載されていますが、いずれも長期品切です。

★「訳者解説」は本書の主題について以下のように説明しています。「全編を貫くモチーフとなっているのは、「アウシュヴィッツを二度と繰り返さない」という絶対的な要請に対して、教育はどれほどの寄与をなしうるのか、またなさねばならないのかということである。教育学を専門とするわけではないアドルノがこの領域にあえて踏み込んだのは、一つには第二次世界大戦の終結後15年ほどを経た時点でも、いまだナチズムを生み出した客観的および主観的諸条件が生きながらえており、それには何よりも教育・啓蒙をもって立ち向かうしかないと考えたからである。さらには、アドルノが本書で触れているように、当時の西ドイツにおける教育学の傾向が、実存哲学に影響されて「絆」や「従順」などといった言辞で埋め尽くされ、民主主義的教育とはほど遠いことに気づかされたからである」(217頁)。「個別的な人間関係の強調によって、普遍的な価値がないがしろにされる」(担当編集者のGさんによるご教示)というリスクもあるのですね。半世紀近く前の書物であるにも関わらず本書が今なお現代の私たちに教えるところがあるのは、おそらくアドルノが経験した〈未曾有の危機のあとの新しい時代〉が、私たちの〈現在〉といまなおどこかでつながっているからかもしれません。

★なお、今後のアドルノの新刊ですが、1月下旬以降の発売予定で平凡社さんより『ゾチオロギカ』の完訳本、来年2月以降に、作品社さんより高橋順一訳『ヴァーグナー試論』が予告されていますね。そしてヴァーグナーと言えば、エッセイ「芸術と革命」の新訳などを含む『友人たちへの伝言』が法政大学出版局さんから来月刊行されるようです。


哲学のアクチュアリティ――初期論集
テオドール・W・アドルノ著 細見和之訳
みすず書房 2011年11月 本体3,000円 四六変型判上製200頁 ISBN978-4-622-08345-0

版元紹介文より:初期アドルノの根幹であり、現代思想の原点をなす1920年代の画期を伝える重要な二講演「哲学のアクチュアリティ」「自然史の理念」を軸に、初めての邦訳「哲学者の言語についてのテーゼ」、長短44の断片「音楽アフォリズム」を収録する。初期の重要論考4編、はじめての公刊。

本文より(「哲学のアクチュアリティ」19頁):哲学に与えられているものといえば、存在者の謎めいた形象およびその不可思議な絡まり合いから、一瞬生じては消えてゆく、さまざまな暗示のみです。哲学の歴史とは、このような形象の絡まり合いの歴史にほかなりません。だからこそ、哲学には「成果」というものが与えられていません。だからこそ、哲学はたえず新たに始めなければなりません。だからこそ、哲学は以前の時代に紡がれたどんなわずかの糸もなしで済ますわけにはゆきません。ひょっとすればその糸は、件の暗号を一つのテクストに変容させてくれる、罫線を補ってくれるかもしれないのですから。

目次:
哲学のアクチュアリティ
自然史の理念
哲学者の言語についてのテーゼ
音楽アフォリズム
訳者あとがき

★前半二篇は30年代前半の講演録、後半二篇はほぼ同時期に書かれたアフォリズム的論考。二つの講演と「哲学者の言語~」は生前は未刊で、死後4年を経て刊行された『アドルノ全集』第一巻に収録されました。「哲学のアクチュアリティ」には大貫敦子さんによる既訳(『現代思想』1987年11月号「アドルノ――モダニズムの往還」収録)があります。あとの三篇は細見さんによる既訳がありますが、これらが一冊にまとまるのは初めてのことです。本書を含めるシリーズ「始まりの本」は、先月刊行開始となったみすず書房さんの創立65周年企画。投げ込みのリーフレットにはこう書かれています。「始まりとは始原(オリジン)。そこから生い育つさまざまな知識の原型が、あらかじめ潜在しているひとつの種子である。新たな問いを発見するために、いったん始原へ立ち帰って、これから何度でも読み直したい現代の古典。未来への知的冒険は、ふたたびここから始まる!」

★シリーズ「始まりの本」の特徴として次の4点が挙げられています。「人文諸科学はじめ、知が錯綜し、新たな展望を示せない不透明な今の時代に、だからこそ〈始まり〉に立ち帰って、未来への指針を与える本。トレンドからベーシックへ、これだけは押さえておきたい現代の古典。すでに定評があり、これからも読みつがれていく既刊書、および今後基本書となっていくであろう新刊書で構成。ハンディな造本、読みやすい新組み、新編集」。第2回配本は2012年1月に2点、第3回配本は3月に2点、第4回配本は6月に5点で、以後は3カ月ごとに3、4冊ずつ配本予定だそうです。刊行予定書目には、アタリの傑作『ノイズ』や、スピノザの新訳『知性改善論・短論文』(佐藤一郎訳)などがエントリーしています。同社で96年から2000年まで二期に渡って刊行された「みすずライブラリー」に続く、久しぶりの後継シリーズと見ていいのではないかと思います。

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哲学者マキァヴェッリについて
レオ・シュトラウス(Leo Strauss, 1899-1973)著 飯島昇藏+厚見恵一郎+村田玲訳
勁草書房 2011年11月 本体7,000円 A5判上製430頁 ISBN978-4-326-30203-1

帯文より:「悪の教師」の真のすがたとは? 近代哲学を初めて発見するさまをスリリングに描き出す。

訳者解説より(417頁):シュトラウスによれば、マキァヴェッリは哲学の創始者でもなければ政治哲学の創始者でもない。マキァヴェッリの名誉は近代哲学の創始者であることに存する。われわれはマキァヴェッリの子供たちである。われわれには古代人たちと近代人たちとの論争を再び開始しなければならない責任がある。

原書:Thoughts on Machiavelli, The University of Chicago Press, 1958.

目次:
日本語版への序文(ネイサン・タルコフ、シカゴ大学教授、シュトラウス・センター長)
序文
序論
第I章 マキァヴェッリの教えの2重の性格
第II章 マキァヴェッリの意図:『君主論』
第III章 マキァヴェッリの意図:『ディスコルシ』 
第IV章 マキァヴェッリの教え

訳者解説『哲学者マキァヴェッリについて』という邦訳書のタイトルについて
索引

★カール・シュミットやアレクサンドル・コジェーヴらと並んで20世紀の政治哲学に浅からぬ爪痕を残した巨人シュトラウスによる卓抜なマキャヴェリ論です。半世紀以上前の書物ですが、今なおインパクトは大きいです。それはシュトラウスの政治哲学が果たした透徹した古典研究によるもので、その業績は20世紀哲学においてハイデガーが見せた、古典と現代を切り結ばせる鮮やかな仕方に比することができると思います(しかし、ナチス・ドイツによって二人の運命は対照的に分かれていきます)。幸いにも日本では長年に渡ってコツコツとシュトラウスの翻訳・研究に打ち込まれてきた先生方がいらっしゃるおかげで、シュトラウスを「ネオコンの源流」などと即断しなくてもいい読書環境が整っています。まだ未訳の著書はありますから、今後も地道に出版が続くことを切望してやみません。

★ニーチェの超訳ブームに沸いた昨年に続いて、今年はブッダをはじめとする様々な超訳が誕生しています。中でもマキャヴェリ人気は高く、彼の三大著書『君主論』『ディスコルシ』『戦術論』のうち、特に『君主論』は幾度となく現代語訳され、要約されています。『ディスコルシ』が筑摩書房版全集から文庫化され、『戦術論』の新訳が刊行されたのも今年です。政治的危機の時代が長引けば長引くほど、マキャヴェリはますます参照されるのでしょう。

2011年03月:永井三明訳『ディスコルシ――「ローマ史」論』ちくま学芸文庫
2011年03月:「フィレンツェの市民にして秘書官ニッコロ・マキアヴェッリの『戦争の技法』の書」(石黒盛久編著『戦略論大系(13)マキアヴェッリ』)芙蓉書房出版
2011年06月:本郷陽二『超訳マキャヴェリの言葉――逆境の時代を生き抜く』PHP新書
2011年10月:許成準『超訳君主論――マキャベリに学ぶ帝王学』彩図社
2011年10月:武田好『マキャベリ『君主論』――慎重であるより、果断であれ!』NHKテレビテキスト
2011年10月:渡部昇一監訳『「君主論」55の教え――「人の上に立つ人」が知っておくべき』知的生きかた文庫(三笠書房)
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by urag | 2011-12-11 18:02 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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