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2011年 12月 04日

注目新刊:2011年11月下旬~12月上旬

★『60年代のリアル』佐藤信(さとう・しん、1988-)著、ミネルヴァ書房、2011年12月、本体1,800円、4-6判上製234頁、ISBN978-4-623-06206-5
12月5日出版、と版元では近刊予告されていますが、すでに店頭発売が始まっているようです。東京大学法学部4年生の昨夏から今春にかけて『毎日新聞』紙上で9ヶ月間に及ぶ全36回もの連載を持つという華々しいデビューを飾った著者の、『鈴木茂三郎1893-1970――統一日本社会党初代委員長の生涯』(藤原書店、2011年2月)に続く第二作。二部構成全8章であり、第I部全4章は、「毎日新聞」連載の「60年代のリアル」を加筆して収録。第II部「10年代のリアル」全4章と巻末の訳40頁もの文献紹介は書き下ろしです。著者の「本好き」はこの文献紹介に如実に表れています。北岡伸一、苅部直、松原隆一郎、御厨貴、といった先達からの熱い推薦をいただいている本書の企画者はミネルヴァ書房の二人のMさん。男性の方のMさんは人文業界では知らぬ人のいない敏腕営業マンで、リブロで書店員をされたのちに版元に転職された方です。書店出身の営業マンというのは現場を良く知っていますから、版元生え抜きの営業マンよりずっと優秀なのです。

60年代の学生運動における生きることの実感と、2010年代のネット社会における生きることの実感。二つのリアルを反省的に交差させることで、本書は現代人における政治の閉塞状況を打破する可能性を見出そうとしています。最終章の「リアルな政治の誕生?」を共感しつつ読むか、そうでないか、によって本書への評価は変わる気がします。年長者から見れば、著者の言う「政治に責任を持つ」態度はあまりにも素朴に映るかもしれませんが、本書を冷笑する場合にも、読者は自問自答しなければなりません、自分にとってリアルとは何か、と。

本書を含め、今年の若手論壇を概観する上で欠かせないキーパーソンとキーブックには以下のものがありました。ここで言う「若手」は、20代から40代までの書き手で今年注目が集まった人々です。

佐々木敦さん(1964-)『未知との遭遇―─無限のセカイと有限のワタシ』筑摩書房、12月。
若松英輔さん(1968-)『井筒俊彦――叡知の哲学』慶應義塾大学出版会、5月/『神秘の夜の旅』トランスビュー、8月。
東浩紀さん(1971-)『一般意志2.0――ルソー、フロイト、グーグル』講談社、11月。
中野剛志さん(1971-)『TPP亡国論』集英社新書、3月/『国力とは何か――経済ナショナリズムの理論と政策』講談社現代新書、7月/『グローバル恐慌の真相』集英社新書、12月
國分功一郎さん(1974-)『スピノザの方法』みすず書房、1月/『暇と退屈の倫理学――人間らしい生活とは何か?』朝日出版社、10月。
宇野常寛さん(1978-)『リトル・ピープルの時代』幻冬舎、7月/『希望論――2010年代の文化と社会』濱野智史共著、NHK出版、12月。
開沼博さん(1984-)『「フクシマ」論――原子力ムラはなぜ生まれたのか』青土社、6月。
村上裕一さん(1984-)『ゴーストの条件――クラウドを巡礼する想像力』講談社、9月。
佐藤信さん(1988-)『60年代のリアル』ミネルヴァ書房、12月。

まだまだ名前を上げることができそうですが、編集者や新聞記者、書店員さんたちと交わした話の中から一部を抽出してみました。

★『フリーダム・ドリームス――アメリカ黒人文化運動の歴史的想像力』ロビン・D・G・ケリー(Robin D. G. Kelley, 1962-)著、高廣凡子+篠原雅武訳、人文書院、2011年12月、本体4,500円、4-6判上製384頁、ISBN978-4-409-23046-6
12月2日取次搬入済。一部の大型店は措くとして、店頭に並び始めるのは週明けごろからでしょう。原著は2002年にBeacon Pressから刊行されたFreedom Dreams:The Black Radical Imaginationで、著者の訳書では『ゲットーを捏造する――アメリカにおける都市危機の表象』(村田勝幸+阿部小涼訳、彩流社、2007年)に続く第二弾。本書の序文と序章がPDFで無料で公開されています。帯文にも引用されていますが、序文にはこう書かれています。「わたしは『フリーダム・ドリームス』を、さまざまな思想――主には周縁化された黒人活動家によって創り出された未来像であるが、彼らは苦境から抜け出る別の進路を指し示してくれた――を回復させるための予備的作業として構想した。新しい運動の拠りどころとなるものとして、これらの思想や戦略のすべてを受け入れよなどと言うつもりはない。そうではなく、要するにいいたいのは、わたしたちはわたしたち自身の集団的な想像力の泉から水を汲み上げなければならないし、先の世代がしたように、夢を描き出さなければならない、ということなのだ」。著者は南カリフォルニア大学歴史学部教授。2009年にはセロニアス・モンク論を上梓しています。十数年前のインタビューでは自身の政治的立場を「マルクス主義的超現実主義的フェミニスト」と表明していたそうです。訳者あとがきでの指摘通り、本書の独自性は、第五章「「人生という名の戦場」――黒人フェミニストの夢」と第六章「(超)現実的に生きる――不可思議なもの(マーヴェラス)の夢」によく表れています。「「超現実的に生きる」とは本書によれば、何よりもまずすでにある現実の破棄である。植民地主義が要求したような進歩や文明をヨーロッパという観点から定義し評価する思考方法から自分自身を解放せよ、この精神の革命こそがシュルレアリスムの核心にあるのだ」と著者は呼びかけている、と訳者は説明しています(329頁)。

★『危機の中で〈ケインズ〉から学ぶ――資本主義とヴィジョンの再生を目指して』ケインズ学会編、平井俊顕監修、作品社、2011年11月、本体2,200円、46判上製284頁、ISBN978-4-86182-357-2
11月30日取次搬入済。昨日12月3日に上智大学で第一回年次大会を開催した「ケインズ学会 The Keynes Society Japan」の初めての本です。経済不況への「処方箋」、と謳う帯文にはこうあります。「日本を代表する15名の経済学者・哲学者たちが、現代経済学の原点〈ケインズ〉に立ち返り、リーマン・ショック以降から続く世界経済危機の本質を解き明かし、その「処方箋」と経済社会の未来を綴る」と。本書は学会のパイロット・シンポジウムの記録を収録し、さらに、ケインズ論6篇と監修者による付論「ケインズとは何者か?」を併録しています。執筆者は以下の通りです。浅田統一郎、小野善康、吉川洋、野口旭、伊藤邦武、岩井克人、間宮陽介、伊東光晴、若田部昌澄(ここまでシンポジウム)、伊藤誠、塩野谷祐一、根岸隆、橋本努、平井俊顕、山脇直司(6名は論文)。版元のプレスリリースには、ノーベル賞経済学者ポール・クルーグマンの言葉が引かれていました――「いまや世界で頼りになる経済学者はただ一人。J・M・ケインズのみ」。本書の「まえがき」にはこう書かれています。「長年マスメディアでは、表層的な一面、場合によっては戯画化されたケインズの一面が取り上げられがちであった(例えば、財政政策の提唱者としてケインズを持ちだし、かつそれを不毛の政策として描く手法)。そうした誤てるスタンスをただし、ケインズが残した経済理論、経済政策論、社会哲学等の諸側面を探究する知的空間を創出すること、そしてそれを通じて現実世界が抱えるさまざまな困難の改善を目指すこと――ケインズに注目することがいま私たちに要請されているのは、何にも増してそのためである」。

★『科学哲学――なせ科学が哲学の問題になるのか』アレックス・ローゼンバーグ(Alex Rosenberg, 1946-)著、東克明+森元良太+渡部鉄兵訳、春秋社、2011年11月、本体3,800円、四六判上製430頁、ISBN:978-4-393-32322-9
発売済。シリーズ「現代哲学への招待」の最新刊。同シリーズは2006年5月にスタートし、今回の新刊で15点目。本書の帯文および版元サイトの紹介文を参照すると、内容は以下の通り。「ヘンペルやファン・フラーセンから、論理実証主義、ポパーの反証可能性、クーンのパラダイム論、クワインの全体論、さらにソーカル事件やフェミニスト科学哲学まで、多彩な議論を取り上げ、形而上学や認識論といった伝統的な哲学との関係を明確にしつつ、科学とその方法論の本性に挑みつづける科学哲学の豊穣な成果と可能性を紹介する最良の入門書。用語解説付」。全7章で各章に読書案内が付き、巻末にも参考文献が載っていますので、関連書を洗い直したい人にはうってつけ。「訳者あとがき」にはこうあります。「科学は理系、哲学は文系、それなのになぜ科学が哲学の問題になるのか、という疑問をもったことのある人には本書をぜひ読んでいただきたい。また、科学哲学の入門書を何冊か読んだことがある人にもぜひ目を通していただきたい。これまでの入門書にはないオリジナルな議論や例が随所にみられるだろう。また、本書は、これまで哲学書をほとんど読んだことがない人にとって、最良の哲学の入門書になるはずである」。単独著の初邦訳となる著者は科学哲学界の重鎮で現在はデューク大学のR・テイラー・コール哲学教授。2004年に来日、東大や京大で講演しています。本書は2005年刊の原著Philosophy of Science: A Contemporary introduction第二版の翻訳(原著初版は2000年)。原著第三版が今年7月に出版されたので、いずれ日本語版も改訂版が出るかもしれませんね。

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by urag | 2011-12-04 23:58 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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