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2011年 10月 16日

2011年9月~10月の注目新刊

9月は、出版界にとって秋の商戦のピークです。そのせいか、ここ最近までに、注目新刊が続々と刊行されておりますね。そのごくごく一部をかいつまんでみても、以下の書目が目にとまります。
『ゼロ年代の想像力』宇野常寛著、ハヤカワ文庫JA
『ポアンカレ予想』ジョージ・スピーロ著、ハヤカワ文庫NF
『これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学』マイケル・サンデル著、鬼澤忍訳、ハヤカワ文庫NF、11月24日発売予定
『純粋理性批判(6)』カント著、中山元訳、光文社古典新訳文庫
『ある革命家の思い出(上)』クロポトキン著、高杉一郎訳、平凡社ライブラリー
『開かれ――人間と動物』ジョルジョ・アガンベン著、岡田温司ほか訳、平凡社ライブラリー
『ナショナリズムは悪なのか――新・現代思想講義』萱野稔人著、NHK出版新書
『西洋哲学史(1)「ある」の衝撃からはじまる』神崎繁+熊野純彦+鈴木泉=責任編集、講談社選書メチエ
『大いなる神秘の鍵――エノク、アブラハム、ヘルメス・トリスメギストス、ソロモンによる』エリファス・レヴィ著、鈴木啓司訳、人文書院
『監視スタディーズ――「見ること」「見られること」の社会理論』デイヴィッド・ライアン著、田島泰彦ほか訳、岩波書店
『ショック・ドクトリン――惨事便乗型資本主義の正体を暴く』上下巻、ナオミ・クライン著、幾島幸子ほか訳、岩波書店
『ロールズ政治哲学史講義』全2巻、ジョン・ロールズ著、サミュエル・フリーマン編、齋藤純一ほか訳、岩波書店
『言説、形象』ジャン=フランソワ・リオタール著、合田正人監修、三浦直希訳、法政大学出版局
『コペルニクス的宇宙の生成(3)』ハンス・ブルーメンベルク著、座小田豊ほか訳、法政大学出版局
『哲学者の使命と責任』ジャンニ・ヴァッティモ著、上村忠男訳、法政大学出版局
『ニグロとして生きる――エメ・セゼールとの対話』エメ・セゼール著、フランソワーズ・ヴェルジェス聞き手、立花英裕ほか訳、法政大学出版局
正直なところ、己の経済力が追随しないのですね。素晴らしい本の数々に嬉しくもあり、悲しくもあり。ともあれ、上記に挙げていない書目の中から、いくつか特記しておきます。

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〈資本論〉入門
デヴィッド・ハーヴェイ(1935-)著 森田成也・中村好孝訳  
作品社 2011年9月 本体2,800円 46判上製549頁 ISBN978-4-86182-345-9
原書:A Companion to Marx's Capital, Verso Books, 2010.
帯文より:世界的なマルクス・ブームを巻き起こしているハーヴェイ教授の最も世界で読まれている入門書! グローバル経済を読み解く『資本論』の広大な世界へ!

一昔前のハーヴェイは地理学者としての成果である都市論や空間論がよく翻訳されていましたが、ここ最近はネオリベ批判、帝国批判など、彼のマルクス主義理論家としてのもっとも躍動的な部分が注目されていますね。作品社さんではこれまで彼の『新自由主義――その歴史的展開と現在』を出版されていますが、今回の『〈資本論〉入門』に続き、年内に『資本の謎』、来春に『コスモポリタニズム』を刊行する予定だそうです。

さらに作品社さんの近刊予定では以下の書目も告知されています。
『戦略の工場――レーニンを超えるレーニン』アントニオ・ネグリ著、中村勝巳ほか訳
『脱原発「異論」』市田良彦+王寺賢太+小泉義之+絓秀実+長原豊
『わが音楽的人生』バーンスタイン著、岡野弁訳
『純粋理性批判』カント著、熊野純彦訳
『危機とサバイバル』ジャック・アタリ著、林昌宏訳
『人間の終わり』ジグムント・バウマン著、高橋良輔訳
『枕詞の研究』三浦茂久著
『ヴァーグナー試論』アドルノ著、高橋順一訳

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震災に負けない古書ふみくら
佐藤周一(1948-)著
論創社 2011年9月 本体1,600円 46判並製190頁 ISBN978-4-8460-1074-4
帯文より:著者の出版人人生は取次でのバイトから始まった。その後、図書館資料整備センター、学校図書サービス(現TRC)、アリス館牧新社、平凡社出版販売へと本のこだわりは続き・・・郡山商店街に郷土史中心の古書ふみくらが誕生する。古い絵葉書のなかに福島の近代史が見える。
あとがきより:これからの古本業界先行きは不透明である。東北では震災を機にやめる書店も増えてきている。只、本は売れなくなったと嘆いても前には進まない。バブル時に売れたことは忘れないと前には進まない。売り場所が少なくなったと嘆くより、これから何を売るのかの算段をした方が少しでも前に進める。/この世界には、先人が残してくれた数百年の蓄積がある。形の有る物だけが本では無いはずだ。売る物を発掘しよう。古本屋という大半が零細企業でも、志は大きく持っていれば、少しは未来が開けるのではないかと、いつも自分に言い聞かせている。古本屋には時代を繋ぐ大きな役割もまだ残っている。(186-187頁)

小田光雄さん(1951-)のインタビューによる貴重なシリーズ「出版人に聞く」の第6弾です。小田さんの「出版状況クロニクル41(2011年9月1日~9月30日)」には、以下のように記されています。「シリーズは〈6〉として佐藤周一の『震災に負けない古書ふみくら』が9月下旬に出て、〈7〉として菊池明郎の『営業と経営から見た筑摩書房』が続く。また〈9〉として鈴木書店の元仕入部長小泉孝一の『鈴木書店の成長と衰退(仮題)』もインタビューを終えた。初めて語られる人文社会書専門取次の歴史であり、ご期待下さい。/先月のみすず書房の小尾俊人に続いて、今月は婦人画報社の本吉敏男、草思社の加瀬昌男、出版ニュース社の鈴木徹造の3人が鬼籍に入った。戦後の出版人が次々と亡くなっていく。/「出版人に聞く」シリーズも、古老にインタビューを広げていく方針をとるべきかもしれない」。この方針に心から賛同したいと思います。私たちのようなまだまだ若造の世代の出版人にとって、出版界のベテランの諸先輩のお話はかけがえのない証言と智慧に満ちています。特に引退された方々にはお話を伺いに行く機会もないですから、シリーズのますますの発展が私たち後進の者のいっそうの励みになるだろうと思います。

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アルノルト+ザルム『ベルリン 地下都市の歴史』(中村康之訳、東洋書林、2011年9月)は、『パリ 地下都市の歴史』(2009年9月)、『ニューヨーク 地下都市の歴史』(2011年7月)に続く、「メトロポリスの地底史」第三弾。今回は池内紀さんが解説を書かれています。パリやニューヨークに比べるとベルリンの地下都市はまだ若い印象がありますが、その分、モダニズムすら感じさせる空間ではあり、帯文に「伝説の「総統地下壕」はいかにして造られたか」とある通り、本書ではナチスの建築遺産の歴史をも振り返ることができます。

管啓次郎『コロンブスの犬』(河出文庫、2011年10月)は、1989年に弘文堂から刊行された著者の処女作の文庫化。より詳しく言うと、親本から「アラバマのチャイナグローヴ」と「対話によるエスノグラフィ」を削除し、港千尋さんの写真を随所に付したもの。本書の親本が刊行される前年、管さんはホノルルでジル・ラプージュの『赤道地帯』を翻訳されており、ご自身のデビュー作が大いに影響を受けたことを「文庫版あとがき」で明かされています。ただ、親本は当時「反響はまったくなかった」とのこと。ではつまらない本なのかというとまったくそうではなく、処女作特有の色あせない若々しさと瑞々しさ、そして読者を魅了する自由で開放されたヴァイブレーションを有する実に素敵なブラジル旅行記です。

『現代思想』2011年臨時増刊号「総特集=宮本常一――生活へのまなざし」は、没後30年に合わせたものでしょうね。影書房の松本昌次さんの談話「雑誌『民話』のことなど――宮本常一を読み継ぐために」が歴史的証言として特に興味深かったです。岩田重則さんの論考「宮本常一とクロポトキン」にも強い関心を持ちました。巻頭に佐野真一さんのエッセイ「「三・一一」以後――宮本常一を学ぶとき」は、題名だけ見ると、先の震災と民俗学者がどうつながるのか、つい身構えてしまいますが、やはり宮本さんのリヴァイヴァルの先達、さりげなく読者を宮本さんに寄り添わせてくれる温かい筆遣いでした。宮本さんと岡本太郎さん、深沢七郎さんの鼎談「残酷ということ――『日本残酷物語』を中心に」はもともと『民話』18号(1960年3月)に掲載されたもので、このたび再録されています。
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by urag | 2011-10-16 23:01 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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