ウラゲツ☆ブログ

urag.exblog.jp
ブログトップ
2010年 11月 07日

青土社10月下旬刊行の注目新刊3点など

青土社より先月下旬に刊行された新刊3点についてご紹介します。かつて『トラークル全集』や『パウル・ツェラン全詩集』全三巻などの個人全訳を成し遂げられた中村朝子さんが、今月同社より刊行される予定の『インゲボルク・バッハマン全詩集』を手掛けられたそうです。さらには来月、中村さん訳の『バッハマン/ツェラン往復書簡集 心の時』も刊行されるとのこと。とても楽しみです。

a0018105_2331355.jpg

暴力――6つの斜めからの省察
スラヴォイ・ジジェク(Slavoj Žižek, 1949-)著 中山徹訳
青土社 2010年10月 本体2,400円 四六判上製294頁 ISBN978-4-7917-6573-7

◆帯文より:見える暴力・見えない暴力。紛争・衝突と内戦、テロと暴動そして流血だけが悲惨なのか。貧困と暴力にきめこまやかに心を配る一方で、グローバリズムに邁進する政治・経済システムから大胆に搾取するリベラル・コミュニストの欺瞞こそが、今日の暴力の最たるものではないのか。ポスト資本主義時代の〈暴力〉の諸相を根源から捉え直す、創見溢れる論考。

◆原書:Violence: Six Sideways Reflections, Profile Books, 2008.

◆目次:
序 暴君の血まみれのローブ
1 SOS暴力
 暴力――主観的、客観的
 ポルト・ダヴォスの善良なひとたち
 リベラル・コミュニスト・ヴィレッジ
 無調の世界におけるセクシュアリティ
2 汝の隣人を汝自身のように恐れよ!
 恐れの政治学
 隣のモノ
 言語の暴力
3 「血に混濁した潮〔うしお〕が解き放たれ」
 交感的コミュニケーションの奇妙な例
 テロリストのルサンチマン
 略奪とレイプをすると想定された主体
4 寛容的理性のアンチノミー
 リベラリズムか、原理主義か――どっちもくたばれ!
 エルサレムの白墨の輪
 無神論という匿名の宗教
5 イデオロギー的カテゴリーとしての寛容
 政治の文化化
 普遍性の効力
 冥界を動かさん――地下の領域
6 神的暴力
 ベンヤミンをヒッチコックとともに
 神的暴力――ではないものからはじめて……
 ……最後に、これぞ神的暴力というものへ
エピローグ
訳者あとがき

参考文献
人名索引

★本書は弊社刊「暴力論叢書」の一冊として出版したかった本です。結局版権を獲得できませんでしたが、こうして翻訳されて読めるようになるのは自社本でなくてもとても嬉しいことです。ジジェクらしいキレのある論説とコンパクトな展開で、こんにちの暴力の多様な現われを解剖する好著。


指紋論――心霊主義から生体認証まで
橋本一径(はしもと・かずみち:1974-)著
青土社 2010年10月 本体2,600円 四六判上製308頁 ISBN978-4-7917-6496-9

◆帯文より:指紋が証明する「私」とは誰か? 19世紀後半、身元確認の手段として発見された〈指紋〉が与えた知られざる衝撃。指紋を残す「幽霊」たち、指紋捜査に冷淡な名探偵ホームズ、指紋採取に対する市民の嫌悪感情――。社会問題からオカルトまで歴史の謎めいた諸断片を渉猟し、近代的主体の変貌を鮮やかに描き出す逆説の身体‐社会論。

◆目次:

第Ⅰ章 幽霊の身元確認
1 霊媒マージャリーと「幽霊の指紋」
2 心霊主義における身元確認の問題
3 心霊写真から心霊指紋へ
第Ⅱ章 死者の身元確認
1 ドラモンド・キャッスル号の沈没
2 モルグの遺体と腐敗
3 ラカサーニュ教授の解剖台
4 慈善バザー火災と法歯学の誕生
5 モルグと司法解剖
6 死体に語らせる
第Ⅲ章 犯人の身元確認
1 ベルティヨンの出生届
2 「お披露目」の廃止と医師による出生確認
3 戸籍の成立と改名の禁止
4 犯罪者の名と身体
5 犯罪を記録する
6 ベルティヨンの人体測定法
7 人体測定法と指紋法
第Ⅳ章 痕跡の身元確認
1 指紋法の発明者ベルティヨン?
2 フォールズと現場指紋
3 ルネ・フォルジョと潜在指紋の科学
4 証拠としての指紋
5 足跡の法医学
6 指紋と推理
7 指紋の偽造
第Ⅴ章 市民の身元確認
1 指紋への抵抗
2 写真と同一性
3 写真から指紋へ
4 パスポートのポートレート
5 証人と国家
6 似ている写真/同じ指紋
終章 「私」の身元確認
1 客観的な主観性?
2 小酒井不木『指紋研究家』
3 指紋採取の恐怖と無意識
4 佐藤春夫『指紋』

図版出典
参考文献

索引

★本書は博士論文に加筆修正したもの、とのこと。東大で宗教学を学ばれ、ルジャンドルの翻訳にも携わっておられるというのは、『切り取れ、あの祈る手を』の佐々木中さんと同じで、年齢も佐々木さんの一歳年下ですね。ディディ=ユベルマンの翻訳実績もある橋本さんを指紋史研究に駆り立てたきっかけは、キットラー『グラモフォン・フィルム・タイプライター』(全2巻、ちくま学芸文庫)にあるそうです。

★本書とジェフリー・バッチェン『写真のアルケオロジー』(前川修+佐藤守弘+岩城覚久訳、青弓社、2010年9月)の刊行を記念して、著者の橋本さんとバッチェンの訳者によるトークイベントが以下の通り来週金曜日に行われます。

橋本一径×前川修×細馬宏通「はぐらかされる同一性――指紋と写真をめぐって
日時:2010年11月12日(金)19:30~
会場:photographers' gallery [新宿区新宿2-16-11-401]
料金:1,000円 定員:25名、要予約
※お申し込みはウェブサイトまたは電話・FAX(ともに03-5368-2631)にて承っております。


デカルトの骨――死後の伝記
ラッセル・ショート著 松田和也訳
青土社 2010年10月 本体2,400円 四六判上製366頁 ISBN978-4-7917-6575-1

◆帯文より:近代思想史最大のミステリー。〈近代哲学の父〉にして、解析幾何学の創始者、自然科学に基づく今日の世界観をつくったとされるデカルト。近代をめぐる最大のミステリーは、彼が死に、16年後に遺骨が掘り出されたところからはじまる――。骨はどこへ消えた? 最も面白く、最も知的なノンフィクション !!

◆本文より(「序」17頁):私が着目した物語は、人類史上にも稀なほど重大な事件と絡んできた。科学の誕生、民主主義の台頭、心身二元論という哲学上の問題、科学と宗教の領域を巡って現在進行形で起きている混乱……。この物語はヨーロッパ全土を舞台とし、あらゆる階層の人々を巻き込む――ルイ一四世、カジノ経営のスウェーデン人、詩人と聖職者、哲学者に自然科学者。彼らはこの遺骨を利用し、盗み、売り飛ばし、崇め、論争し、そして手から手へと伝えてきたのである。

◆原書:Descartes' Bones: A Skeletal History of the Conflict between Faith and Reason, Doubleday, 2008.

◆目次:

1 死んだ男
2 骨の祝宴
3 聖ならざる遺骨
4 場違いな頭部
5 頭蓋の容量
6 身柄提出令状
7 近代の顔
エピローグ
原註
翻訳者あとがき
参考文献
索引

★デカルトの遺骨がヨーロッパを転々としてきた歴史を追いかけた本です。原著副題は「信仰と理性をめぐる争いの歴史の骨子」。帯に引用されている序文の後段にある次のくだりが、本書の正確な内容紹介になっていると思います。「西洋社会は何らかの危機を迎えつつある。ならばこのあたりで、基本的な問いをいくつか立ててみるのもよいだろう。われわれの言う「近代社会」――寛容、理性、民主的価値観に基づく非宗教的文化――が占める割合は、世界の中でさほど大きくはない。しかもそれは縮小に向かっている。近代性とは、本当にわれわれが考えるほど恒久的な進歩の力なのか? それとも長い人類史の中の儚い線香花火に過ぎなかったのか? もしもそれに何らかの価値があるなら、それを再発見し、その長所と短所を見極め、適切かつ必須なものとするにはどうすればよいのか?/実を言えば、デカルトの骨の道筋とは、近代と呼ばれる数世紀の光景を辿る旅だった」(20頁)。

★本書は異色の哲学史と言ってもいいかもしれませんが、それ以上に文明批判、現代社会批判の書と言ったほうが適当かもしれません。押しつけがましい主張があるわけではなく、人類の辿ってきた道のりとその遺産から「今」を忌憚なく客観視し、現代文明の抱える難問に対峙するヒントを抽出しようというものです。7章の最後の言葉が印象的です。「「線人類」から脱却し、最古のコミュニケーション技術を信頼するのだ。そうすれば、敵対する陣営の人も見方を変え、相手の顔の中に信頼の印を探そうとしてくれるかもしれない」(326頁)。ここだけを抜き出すと今ひとつ分かりにくいかもしれませんが、これ以上のネタバレはせずに、本書を手にとって楽しんでいただきたいと思います。「骨」の話からこんな結論に達するとは、という話術の巧みさを感じさせます。

★ちなみに著者自身による本書のプロモーションを、アマゾン・コムで視聴することができます。

★『デカルトの骨』の編集を担当されたIさんは今夏に郡司ペギオ‐幸夫さんの最新作『生命壱号』を手掛けられた編集者でいらっしゃいます。編集者つながりで本をイモヅル式に読む楽しみをご存知の方のために、『生命壱号』の書誌情報も掲載しておきます。

生命壱号――おそろしく単純な生命モデル
郡司ペギオ‐幸夫(1959-)著
青土社 2010年7月 本体2,400円 四六判並製350頁 ISBN978-4-7917-6514-0

◆帯文より:生命の具体的モデル=生命壱号が完成しました。対立し相反するように見えることを個物のなかで調停し、壊れずに動き続ける画期的生命モデルの全貌。生命を理解する、とはどういうことか?

郡司ペギオ‐幸夫(1959-)著書(単独著)一覧
『生命理論(I)生成する生命』哲学書房、2002年8月
『生命理論(II)私の意識とは何か』哲学書房、2003年1月
『原生計算と存在論的観測』東京大学出版会、2004年7月
『生命理論』哲学書房、2006年3月※『生成する生命』『私の意識とは何か』を合本。
『生きていることの科学――生命・意識のマテリアル』講談社現代新書、2006年6月
『時間の正体』講談社選書メチエ、2008年9月
『生命壱号』青土社、2010年7月

a0018105_2341387.jpg

★編集者つながり、ということで申し上げれば、当ブログでもご紹介している今年最大の人文書ベストセラー、早川書房のサンデル『これからの「正義」の話をしよう』の担当編集者のTさんが先月次のような話題書を手がけられました。「フィナンシャル・タイムズ」とゴールドマン・サックスが選ぶ「ビジネスブック・オブ・ザ・イヤー」の2010年の有力候補だそうです。

繁栄――明日を切り拓くための人類10万年史

マット・リドレー(Matt Ridley, 1958-)著 大田直子+鍛原多惠子+柴田裕之訳
早川書房 2010年10月 本体各1800円 四六判上製292頁/288頁 ISBN978-4-15-209164-2/978-4-15-209165-9

◆版元紹介文より:人類が進歩を続ける理由は「アイデアの交配」と「分業化」にある! 古今東西のデータから文明繁栄の謎を解き明かし、貧困拡大や環境破壊といった悲観的未来予測を覆す。英米ベストセラーの人類史。【上巻】経済崩壊、貧困拡大、環境汚染、人口爆発……。メディアを席捲する知識人は、われわれ人類は今にも破滅に向かうと日々嘆く。だが実のところ、こうした悲観的未来予測は200年前から常にあったのだ――ほとんど外れてきたにもかかわらず。各種データを見れば、事実はまったく逆だ。「今」ほど最高の時代はない。そして人類の生活レベルは地球規模でなお加速度的に向上している。なぜか? 有史のある時点で、交換と分業が生まれ、それによって個々の知識が「累積」を始めたからだ。石器時代からグーグル時代にいたるまでを、ローマ帝国、イタリア商人都市、江戸期日本、産業革命期英国、そして高度情報技術社会などを例に、経済、産業、進化、生物学など広範な視点で縦横無尽に駆けめぐる。東西10万年をつうじて人類史最大の謎「文明を駆動するものは何か?」を解き明かす英米ベストセラー、待望の日本語版。【下巻】交易なくして農耕は成り立たなかった! 「自給自足」はいかなる豊かさも生み出さない! 都市化と化石燃料と化学肥料がもたらされたからこそ、労働・生活環境は向上し、食糧危機を免れ、しかも自然をここまで保つことができた! そして技術革新を促すのは、資本でも知的財産権でも政府でもなく、「共有」である――。人類史上の各種の定説や常識を、著者は膨大な資料とデータにもとづいて次々と覆していく。人類の歴史はつまるところイノベーションの歴史だ。そしてイノベーションは累積的に拡大する。では、これらを踏まえた先にわれわれを待ち受ける未来とは? 名著『やわらかな遺伝子』の著者が、圧倒的な説得力で謳いあげる「合理的楽観主義」宣言。

◆原書:The Rational Optimist: How Prosperity Evolves, Fourth Estate / Harper, 2010.

◆目次:
【上巻】
プロローグ アイデアが生殖するとき
第1章 より良い今日――前例なき現在
第2章 集団的頭脳――20万年前以降の交換と専門化
第3章 徳の形成――5万年前以降の物々交換と信頼と規則
第4章 90億人を養う――1万年前からの農耕
第5章 都市の勝利――5000年前からの交易
原注
【下巻】
第5章 都市の勝利――5000年前からの交易(承前)
第6章 マルサスの罠を逃れる――1200年以降の人口
第7章 奴隷の解放――1700年以降のエネルギー
第8章 発明の発明――1800年以降の収穫逓増
第9章 転換期――1900年以降の悲観主義
第10章 現代の二大悲観主義――2010年以降のアフリカと気候
第11章 カタラクシー――2100年に関する合理的な楽観主義
謝辞
訳者あとがき
原注

★原著の書名を直訳すると『合理的な楽観主義者――繁栄はどのように進化するか』です。編集担当のTさんからは「ビョルン・ロンボルグの合理的楽観主義とジャレド・ダイヤモンドの綜合力を兼ね備えた人類史の傑作」とご紹介いただきました。確かにリドレーは石器時代からこんにちに至るまでの人類の歴史を視野に収めるという驚くべきワイドレンジぶりを発揮し、そこから得た知見によって、人類の未来をいたずらに悲観するような悪循環をたくみに避けています。大著なので、手っ取り早く結論を知りたい読者は、下記で紹介する著者自身の講演を視聴した上で、下巻の最後の二章から読み始めるのがいいかもしれません。

★本書の内容については、著者によるTED講演「アイデアがセックスするとき」(日本語字幕版、動画17分)と、第1章のpdfをご参考になさってください。

★マット・リドレー(Matt Ridley, 1958-)既訳書一覧
『赤の女王』長谷川真理子訳、翔泳社、1995年1月
『徳の起源』古川奈々子訳、翔泳社、2000年6月
『ゲノムが語る23の物語』中村桂子ほか訳、紀伊國屋書店、2000年12月
『やわらかな遺伝子』中村桂子ほか訳、紀伊國屋書店、2004年4月
『繁栄(上・下)』大田直子ほか訳、早川書房、2010年10月

a0018105_2343836.jpg

[PR]

by urag | 2010-11-07 01:57 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
トラックバックURL : http://urag.exblog.jp/tb/11531490
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。


<< 朝日新聞に『不完全なレンズで』の書評      新規開店情報:月曜社の本を置い... >>