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2010年 10月 11日

人文系注目新刊3点(2010年10月)

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先月末から今月にかけて発売された新刊3点をご紹介します。松葉祥一さんの『哲学的なものと政治的なもの』は、バリバール、ランシエール、デリダなど数多くのフランス現代思想の翻訳を長年手掛けられてきたキャリアの中で初めての、哲学的著作をまとめた待望の論文集です。哲学と政治をめぐるフランス現代思想の成果のエッセンスがこれでもかというくらいに凝縮された稀有な一冊になっています。なお、松葉さんは『現代思想』2010年10月号の特集「臨床現象学――精神医学・リハビリテーション・看護ケア」において、看護学の研究者・西村ユミさんと対談されています(「看護における「現象学的研究」の模索」)。

友常勉さんの『脱構成的叛乱』はデビュー作となる本居宣長論『始原と反復』に続く第二作で、2001年以降に各種媒体で発表されてきた論文を一冊にまとめたものです。民衆による反制度化の力を示唆する「脱構成的」という術語は、コレクティボ・シトゥアシオネス(『闘争のアサンブレア』月曜社)とデヴィッド・グレーバー(『資本主義後の世界のために』以文社)から採られています。

最後の『ガンディーの経済学』はインド出身の経済学者ダースグプタ(ダスグプタとも)の単独著の翻訳では第4弾になるものです。文字通り、ガンディーの様々な著作から彼の経済思想を再構成したもので、ポスト資本主義への重要な手掛かりとヒントに満ちた良書。本書で紹介される「受託者制度」というのは、経済的富裕者が「受託者」として自らの財産を公的に活用するための規範を示すもので、自らの富のうち合理的に必要な分を残し、あとは社会のために使用することができる、という制度のようです。なるほどね。

哲学的なものと政治的なもの――開かれた現象学のために
松葉祥一(1955-)著 
青土社 2010年9月 本体2,400円 四六判上製332頁 ISBN978-4-7917-6567-6

◆帯文より:個人の自由、他者との共存、新たな共同性は、いかにして可能か。「いま・ここ」 の現象の襞を読み取り、他者への通路を見出す。メルロ=ポンティの哲学的企てをその深部でとらえ、デリダやフーコー、バリバール、ランシエール、ナンシー、ラクー=ラバルトらとともに、「共同性なき共同体」 あるいは 「肉の共同体」 という新たな問いの地平を切り開く哲学思想の新境位。

◆目次:
はじめに――新たな共同性を求めて
 自由主義でも共同体主義でもなく
 哲学的なもの・政治的なもの
 自由と共同存在
 開かれた現象学
 肉の共同体へ
I 政治的なものの現象学――メルロ=ポンティを読む
 1 コミュニオンからコミュニケーションへ
    『知覚の現象学』における「コミュニオンの他者論」
    「メキシコ講演」におけるコミュニケーションの他者論
    コミュニオンからコミュニケーションへ
    結論
 2 自由の両義性
    〈理性的自由〉と二つの〈非決定の自由〉
    両義的自由
    結語
 3 歴史に目的はあるか
    二つの歴史観と第三の態度
    パースペクティヴとしての歴史
    偶然性目的論
 4 普遍性要求と暴力
    一九四〇年代の自由主義批判
    一九五〇年代のマルクス主義批判
    実験的合理性
    ゲシュタルトとしての歴史
    結論
II 哲学的なものと政治的なもの
 5 政治的なもの〔から〕の引退――ナンシー+ラクー=ラバルトと 「政治的なものについての哲学的研究センター」
   1 政治的なもの〔から〕の引退
      哲学的なものの政治的前提
      政治的なものの哲学的前提
      政治的なものと哲学的なものの相互依存
   2 哲学は政治を理解できない
      「経験的なもの」と「根源的なもの」
      普遍主義に対する批判としての相対主義
      相対主義に対する批判
   3 「判断」 の可能性
      判断力とは何か
      結語
 6 〈政治〉 はデモスとともに――ランシエールと 「政治」 の哲学
    政治の起源
    政治とは何か
    アルシ・ポリティーク
    パラ・ポリティークの二つの形式
    メタ・ポリティークと 「政治」 の哲学
    政治とその哲学
III 隷属知の解放のために
 7 沈黙から言表への 「中継器」 として――〈監獄情報グループ〉 とフーコー
    「耐え難いことのアンケート」
    トゥールからナンシーへ
    代理=表象への批判
    隷属知の解放のために
 8 移民・市民権・歓待――サン・パピエの運動とバリバール、デリダ
    サンベルナール教会のサン・パピエとドゥブレ法
    国家横断的市民権
    歓待の法
 9 民主主義でも、民主制でもなく――デモクラシーとランシエール
    自然的秩序に反し、社会秩序を混乱させるデモクラシー
    政治制度でも理念でもないデモクラシー
    実践としてのデモクラシー
 10 モグラの巣穴からヘビのうねりへ――管理社会とドゥルーズ
    限定的統治から無際限の統治へ
    解体される主体
    政治的多元=一元論へ
    抵抗
IV 〈肉の共同体〉 へ
 11 全体主義・ヒューマニズム・共同体――サルトルと 「余計者」 の共同体
    「綜合的精神」としての「全体」主義
    反ヒューマニズムと全体主義批判
    「余計者」 の共同体
    結論
 12 存在論としてのコミュニズム――ナンシーと 「有限なる現前性のコミュニズム」
    主体と共同体
    共現前=出頭としての共同体
    「有限なる現前性のコミュニズム」
 13 「共同性〔コミュノテ〕なき共同体〔コミュノテ〕」は可能か――デリダの共同体への問いかけ
    「自らに触れる、君よ」――『触覚、』
    共同性なき共同体――『友愛のポリティックス』
 14 〈肉の共同体〉の可能性――メルロ=ポンティを再読する
    身体の形をした国家
    「身体としての日本」
    肉の存在論
    肉の共同体
おわりに
 福祉国家と自由主義国家
 統治のテクノロジーとしての「ポリス」
 自由主義における統治術の完成
 統治の論理を越えて
 哲学者たちの戦争
初出一覧

★松葉祥一・著書一覧
『ナースのための実践論文講座』(人文書院、2008年1月)
『哲学的なものと政治的なもの――開かれた現象学のために』(青土社、2010年9月)


脱構成的叛乱――吉本隆明、中上健次、ジャ・ジャンクー
友常勉(1964-)著
以文社 2010年10月 本体3,200円 四六判上製312頁 ISBN978-4-7531-0282-2

◆帯文より:民衆的な想像力による表現(=脱構成的叛乱)を、私たちはいかに感知しうるのか? 吉本の〈表出論〉や中上の〈文学的企て〉、ジャ・ジャンクーの〈映画=政治的実践〉の試行をとおして、その相貌を精緻に追及した、民衆思想/芸術論の新たなる展開! 私たちの時代の〈疲労〉と〈歓喜〉。

◆目次:
序文
 1 山梨県中央市
 2 サンフランシスコ
 3 脱構成的叛乱
 4 叛乱-出来事
 5 〈掙扎〔そうさつ〕〉――自己に対する暴力
I 吉本隆明の表出=抵抗論
 表出と抵抗――吉本隆明〈表出〉論についての省察
  1 表出史の方法
  2 反-望郷論
  3 前-表出的なるもの
  4 おわりにかえて――回帰と超克
 〈意志〉の思考――1978年、ミシェル・フーコーと吉本隆明の対話
  1 はじめに
  2 「意志」と「逆さまの世界」
  3 〈意志〉の実践
  4 異時間heterotopies/異位相heterotopologiesの実践
 『論註と喩』――反転=革命の弁証法
II 中上健次と部落問題
 中上健次と戦後部落問題
  1 中上健次と差異主義的人種主義としての部落差別
  2 中上健次の脱-物語化の戦略
  3 『異属』と民族主義的国民主義のアイデンティティ
  4 部落のアイデンティティと人種的民族性
  5 「オールロマンス事件」と戦後部落問題の言説
 「路地」とポルノグラフティの生理学的政治
III アジアの民衆表象
 アジア全体にあらわれている疲労という感覚――賈樟柯『長江哀歌』の映像言語
  1 『長江哀歌〔エレジー〕』(『三峡好人〔サンシャハオレン〕/スティル・ライフ』
  2 映像言語が生成するということ
  3 「歓喜のあまりに死んでいく」
  4 「アジア全体に現れている疲労の感覚」
  5 おわりに
 震災経験の〈拡張〉に向けて
  1 開発主義のなかの〈生〉
  2 震災のなかで
  3 震災報道という経験
  4 震災経験の拡張にむけて
 街道の悪徒たち――『国道20号線』の空間論と習俗論
IV 農民論
 ある想念の系譜――鹿島開発と柳町光男『さらば愛しき大地』
  1 〈開発〉という主題
  2 『さらば愛しき大地』
  3 開発表象という問題
  4 おわりに――ある論争
 1930年代農村再開とリアリズム論争――久保栄と伊藤貞助の作品を中心に
  1 はじめに
  2 社会主義リアリズム論争における久保栄と伊藤貞助
  3 『火山灰地』と農業問題の構造
  4 伊藤貞助『土』と『耕地』
  5 おわりに――残された課題
初出一覧
あとがき

★友常勉・著書一覧
『始原と反復――本居宣長における言葉という問題』(三元社、2007年7月)
『脱構成的叛乱――吉本隆明、中上健次、ジャ・ジャンクー』(以文社、2010年10月)


ガンディーの経済学――倫理の復権を目指して
アジット・K・ダースグプタ(Ajit Kumar Dasgupta:1928-)著 石井一也監訳
作品社 2010年10月 本体2,600円 四六判上製358頁 ISBN978-4-86182-302-2

◆帯文より:新自由主義でもマルクス主義でもない「第三の経済学」という構想。知られざるガンディーの「経済思想」の全貌を、遺された膨大な手紙や新聞の論説によってはじめて解き明かす。本書では、主に、人々の消費行動、産業化と技術、受託者制度、労使関係、仕事と余暇、および教育といった諸領域におけるガンディーの経済思想を検討する。

◆原書:Gandhi's Economic Thought, Routledge, 1996.

◆目次:
第一章 序論
 ガンディー主義的経済学におけるユートピアと現実
 ガンディーの宗教
 経済学と倫理学
 ガンディーと倫理理論
第二章 選好、効用および福祉
 はじめに
 欲求の制限
 倫理的選好とスワデーシー
 利他主義と慈善
 労働、余暇、パンの労働の教義
第三章 権利
 権利と義務
 特定の諸事例
 権利の決議
 結論 
第四章 産業化、技術および生産規模
 ガンディー対ラーナデー
 産業化反対論
 産業化反対論への諸留保
第五章 不平等
 敬意としての平等
 経済的不平等
 不平等、不可触民制度およびカースト制度
 ジェンダー的不平等
第六章 受託者制度理論
 受託者制度理論の説明
 受託者制度と信託法
 受託者制度と労使関係
 受託者制度と地主制度
 結論
第七章 教育
 はじめに
 教育の目的
 ナイー・タリム(新しい教育)
 なぜ学校は自立するべきなのか
 高等教育
 結論
第八章 特定の論点─―人口政策・ガンディーの先人たち
 人口政策
 ガンディーの先人たち
第九章 ガンディーの遺産
 インドの経済政策に対するガンディーの影響
 倫理学と経済学
 ガンディーと農地開発
 方法論上の諸問題
原注
訳注
監訳者あとがき
地図
索引

★アジット・K・ダースグプタ訳書一覧
『コスト・ベネフィット分析――厚生経済学の理論と実践』(アジト・K・ダスグプタ+D・W・ピアース著、尾上久雄・阪本靖郎訳、中央経済社、1975年/原書Cost-benefit Analysis: Theory and Practice, Macmillan, 1972)
『経済理論の変遷』(A・K・ダスグプタ著、水上健造・長谷川義正訳、文化書房博文社、1992年1月/原書Epochs of Economic Theory, Blackwell, 1985)
『経済成長・発展・厚生――国民生活の水準をめぐって』(A・K・ダスグプタ著、水上健造・長谷川義正訳、文化書房博文社、1995年5月/原書Growth, Development and Welfare: An Essay on Levels of Living, Blackwell, 1988)
『経済理論と発展途上諸国』(アジト・K・ダスグプタ著、長谷川義正訳、学文社、1996年12月/原書Economic Theory and the Developing Countries, Macmillan, 1974)
『ガンディーの経済学――倫理の復権を目指して』(アジット・K・ダースグプタ著、石井一也監訳、作品社、2010年10月/原書Gandhi's Economic Thought, Routledge, 1996)
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by urag | 2010-10-11 23:25 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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