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2010年 09月 20日

市田良彦『アルチュセール ある連結の哲学』平凡社より発売

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アルチュセール ある連結の哲学
市田良彦(1957-)著
平凡社 2010年9月 本体3,400円 四六判上製カバー装336頁 ISBN978-4-582-70289-7

◆帯文より:哲学者は何をどこまで思考したのか。歴史の構造ではなく〈状況の理論〉をこそ追求しつづけた曲折の全域を探査し、歴史の特異点に向けて、〈はじまり〉のために空虚をこじ開け、理論と実践、哲学と政治の連結と差異を消尽点にまで追いつめ、マルクス主義の境まで越えてなお、〈現時点〉に理論的に介入する、その思考の振舞いをこそ手に入れる。第一人者による待望のアルチュセール論!

◆目次:
はじめに
第1章 状況conjonctureの理論
 1967年
 ある誤解と失敗――モンテスキューとマキァヴェッリ
 構造〈としての〉状況、〈今〉という〈はじまり〉
 状況を〈読む〉、あるいはヘーゲルの亡霊
第2章 主体の論理
 なにが不在であるのか?
 イデオロギーのほうへ
 批判的主体の時間性
 遠方から
第3章 政治とはなにか、哲学とはなにか
 哲学の〈対象〉としての状況/政治
 連結から二重化へ――「哲学的治療」の技術
 二重化の〈凝固〉、マキァヴェッリ、主体化の政治
第4章 最後の〈切断〉
 状況の理論としての出会いの唯物論
 哲学においてマルクス主義であること
 すべての人間である哲学者
おわりに

★『闘争の思考』(平凡社、1993年6月)、『ランシエール――新〈音楽の哲学〉』(白水社、2007年8月)に続く、市田良彦さんの単独著第3弾です。市田さんは「1990年代の前半、IMECのアルチュセール文庫に入り浸って」(「あとがき」326頁)、刊行された著書だけでなく手稿とも丹念に向き合い、その後、こんにちに至るまで主にフランス語で論文を発表し続けてこられました。そうした成果は「生涯の諸事実を端法するいわゆる伝記ではなく、〔中略〕思想的変遷を辿る個人的思想史」でもない「理論的な伝記を目指す」ものとして本書に結実します(「はじめに」7頁)。

★「「マルクス主義」まで無効にすることにより、彼〔アルチュセール〕はマルクス主義を守った〔中略〕。結果として残るマルクス主義は、この逆説のなかに宙吊りにされ続けるほかなく、あまり意味がない。それは「ある」とも「ない」とも言えるものでしかないだろう」(「あとがき」326頁)。「本書がアルチュセールの「諸矛盾」に「果敢に取り組んだ」というのは本書の正確な要約であるが、そのことは本書についても、なにも教えない。捉〔つか〕まえがたいものを捉まえることは「諦める」ことから、本書ははじまっている。アルチュセールにとってマルクス主義が「あり」かつ「ない」のと同じように、本書がアルチュセール論で「あり」かつ「ない」ことを、私は最初から望んでいた」(「あとがき」333-334頁)。

★思えば、書き下ろしの前作『ランシエール』も、哲学者の思想をまとめた「論」としては破格でした。なにせ70年代ロックの文化と政治がこの本の裏テーマとも読めるわけですから。私の貧しい表現力ではどうにも形容できませんが、市田さんの「知的不良」ぶりは読む者を挑発し、ゆさぶります。その熱い「市田節」は実に魅力的です。『アルチュセール ある連結の哲学』は、「個体であろうと社会であろうと現実的なものはすべて出会いによって発生するという〈超-普遍〉」(265頁)を見出したアルチュセール晩年の《出会いの唯物論》への長い註釈とも言えるかもしれません。本書をアルチュセールの1982年の論考「出会いの唯物論の地下水脈」(所収:ルイ・アルチュセール『哲学・政治著作集(I)』市田良彦・福井和美訳、藤原書店、99年6月)とともに読み直したいと思います。

++++

今月の平凡社さんの新刊はいずれも粒ぞろいです。『加藤周一著作集(18)近代日本の文学者の型』は著作集全24巻の最終配本であり、これによって第Ⅰ期(1978-80年、全15巻)に続いて、第Ⅱ期(1996-2010年、全9巻)が完結したことになります。第Ⅰ期開始から数えて30年以上、第Ⅱ期から数えても15年近い年月です。その持続力に頭が下がります。ブログ「今日の平凡社」の記事「予告『加藤周一著作集』全24巻完結」によれば、最終回配本の刊行にあわせて、品切だった既刊23巻も復刊。各巻分売のほか、全24巻セットも9月末頃から出荷開始とのことです。

また、マイケル・ハミルトン・モーガン『失われた歴史――イスラームの科学・思想・芸術が近代文明をつくった』(北沢方邦訳)や、W・G・ウォルシュ『清国作法指南――外国人のための中国生活案内』(田口一郎訳、東洋文庫799)も刊行されました。前者は、中世において世界でもっとも科学的・思想的に進んでいたのがイスラーム世界であり※、彼らの文化的遺産がいかに西欧近代に深い影響を与えたかを明らかにした研究書です。後者は「イギリス人宣教師が記した清朝末期の風俗習慣の記録」(帯文より)で、外国人が守るべきマナーコードについて丁寧に解説しています。昨今の世界状況の中では、日本は中国やイスラーム世界の歴史について真摯に学ぶより、自国および同盟国の利益と彼らがどう「政治的に」対立しているかに視線が向きがちな気がします。そんなご時世なだけに、こうした本の出版は実に喜ぶべきことだと歓迎したいです。

※たとえば、地動説は16世紀ポーランドのコペルニクスに先んじること数百年、13世紀の中近東においてムハンマド・イブン・アル=ハッサン・アル=トゥシー(1201-1274;トゥス~バグダッド~アゼルバイジャン)の計算が明らかにしていました。コペルニクスは彼の成果に学んだのではないかという説があるそうです。

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by urag | 2010-09-20 21:28 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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