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2010年 07月 17日

レリスの奇書『幻のアフリカ』が改訳決定版で平凡社ライブラリーから再刊

幻のアフリカ
ミシェル・レリス(Michel Leiris, 1901-1990):著 岡谷公二+田中淳一+高橋達明:訳
平凡社ライブラリー 2010年7月 本体2,800円 HL判1,068頁 ISBN978-4-582-76705-6

◆帯文より:奇跡の民族誌/告白文学。「僕は《女ザール》の詳細を科学的に知るよりは、《女ザール》を身体で知りたいのだ……」。改訳決定版! 解説=真島一郎「秘密という幻、女という幻」

◆カバー裏紹介文より:ダカール=ジプチ、アフリカ横断調査団(1931-33年)――フランスに「職業的で専門化した民族学」が生まれた画期。本書は書記兼文書係としてレリスが綴ったその公的記録である。だが、客観的な日誌であるはずの内容には、省察(植民地主義への呪詛)、夢の断片や赤裸な告白(しばしば性的な)、創作案、等々が挿入され、科学的・学術的な民族誌への読者の期待はあっさり裏切られる。刊行当初は発禁の憂き目にあったのも当然であるが、この無垢で誠実なレリスの裏切りのなかにこそ、大戦間期のアフリカが立ち現われる逆説、奇跡の民族誌。

◆原書:L'Afrique fantôme, Gallimard, 1934.

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★分冊せずによくぞ全一巻で出してくださいました。結果的には平凡社ライブラリー史上初めてではないかと思われる千頁越えで、束は5センチ近くあります。既視感があるなと思ったら、この厚さはほぼ、弊社の森山大道『新宿+』とほぼ同じ。普通に考えれば「二分冊にすれば?」という社内の声が上がったことでしょうが、分冊って私の場合、ちょっと興が覚めるのですね。特に原書では全一巻で購入できるものが訳書では分冊になると。そんなわけで『幻のアフリカ』全一巻万歳!という気持ちです。おかげで値段は2800円というこのサイズの本では見たことのない価格になっていますが、やむをえません。

★写真をご覧になっていただくと分かると思うのですが、歴代の版の中でももっとも分厚い本になっています。

幻のアフリカ(1)
ミシェル・レリス:著 岡谷公二+高橋達明+田中淳一:訳
イザラ書房 1971年11月 定価1,900円 A5判並製函入574頁 ISBNなし

★イザラ書房版の時点では、発禁となった原書34年版が見つからないため、序文(訳書では「序」)と註を付して51年に刊行された決定版が底本となっています。ちなみに34年版は昨今の古書市場では4万円から6万円くらいで購入可能です。イザラ版についてですが、「あとがき」には「上巻」や「下巻」といった言葉が出てくるので、おそらく上下二巻本で刊行する予定だったのでしょう。しかしそれは果たされませんでした。それにしてもこの時代のイザラ書房は人文書版元として非常にとんがった出版活動をしていましたね。

★訳者名の順番について。平凡社版を基準にすると、イザラ版では、田中さんと高橋さんが上記の通り逆です。河出版ではカバーが平凡社現行版と同様ですが、奥付はイザラ版と同じ。

幻のアフリカ
ミシェル・レリス:著 岡谷公二+高橋達明+田中淳一:訳
河出書房新社 1995年4月 本体7,573円 A5判上製カバー装572頁 ISBN4-309-24158-1

◆帯文より:《聖なるもの》の探究者レリスの名著、待望の完訳!! 詩人にして民族学者、バタイユの盟友レリスの未知なるアフリカへの旅。夢の断片、仮面の祭祀、供犠、異邦の女…。民族誌であり、詩であり、告白である空前絶後の書物!!

★河出版では「序」は「はじめに」と題名が変わっています。巻末には「あとがき」ではなく「『幻のアフリカ』について」と題された岡谷さんの文章が載っていますが、完訳に至る艱難な道のりについては、同じく岡谷さんが書かれた巻頭の「解題」に詳しいです。原稿が訳者の手元に戻ってこなかったため河出版では新たに訳し直したそうで、ご苦労が偲ばれます。河出版の担当編集者は安島真一さん。

★写真では河出版のカバーは真っ黒く見えるかもしれませんが、実際にはじつに味わい深い褐色の模様がついていてとても素敵です。装丁は鈴木成一さんによるもの。

★河出版も底本は51年版。その後入手された34年版と比べて本文の異同がなかったためだそうです。81年に新たな「まえがき」を添えた版が出ているとのことですが、やはり本文には誤植訂正以上のものはなかったようです。34年版には51年版と内容がほぼ同じの序文が載っていますが、短いヴァージョンとのこと。ちなみに平凡社版でも81年の「まえがき」は残念ながら訳出されませんでした。版権の都合だろうと思います。

★平凡社版を担当されたのは松井純さん。岡谷さんがお訳しになったレーモン・ルーセルの『アフリカの印象』(白水社、1980年)が平凡社ライブラリーで再刊された際に担当されたのも、松井さんです。松井さんはかつてレリスとジャクリーヌ・ドランジュとの共著『黒人アフリカの芸術』(岡谷公二訳、新潮社〈人類の美術〉、1968年、絶版)の素晴らしさについてエッセイを書かれたことがあります。

★レリスが参加した調査団の団長をつとめたのはマルセル・グリオール(Marcel Griaule, 1898-1956)でした。彼のアフリカ研究で邦訳されているのは、『水の神』(坂井信三+竹沢尚一郎:訳、せりか書房、1981年/97年新装版)と『青い狐』(ジェルメーヌ・ディテルラン:共著、坂井信三訳、せりか書房、1986年、品切)があります。どちらもドゴン族の神話世界を研究したものです。このほかにも『世界の探検家』(「グリヨール」表記、大塚幸男訳、文庫クセジュ、1953年)という翻訳があり、レリスと対照的なグリオールの生真面目さは「むすび」の最後の3段落によくあらわれています。
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by urag | 2010-07-17 20:29 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(2)
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Commented by ゆういち at 2010-12-30 14:09 x
このサイトでチェックして、読みたいと強く感じた本書。2010年の最後としてついに本日購入しました。読書ペースが遅いので読了まで果たしてどれほどかかるだろうか。いつも、興味深い書の紹介ありがとうございます。
Commented by urag at 2011-01-01 12:51
ゆういちさんこんにちは。拙ブログをご高覧いただきありがとうございます!これからもよろしくお願いします。


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