人気ブログランキング | 話題のタグを見る

URGT-B(ウラゲツブログ)

urag.exblog.jp
ブログトップ
2010年 05月 23日

NHK教育のテレビ放送で話題沸騰、サンデルの名講義のネタ本が早川書房より刊行

これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学
マイケル・サンデル(Michael J. Sandel:1953-)著
鬼澤忍訳 早川書房 10年5月 本体2,300円 四六判上製カバー装380頁 ISBN978-4-15-209131-4

◆原書:Justice: What's the Right Thing to Do?, Macmillan (Farrar, Straus and Giroux), 2009.

◆カバーソデ紹介文より:1人を殺せば5人が助かる状況があったとしたら、あなたはその1人を殺すべきか? 金持ちに高い税金を課し、貧しい人びとに再分配するのは公正なことだろうか? 前の世代が犯した過ちについて、私たちに償いの義務はあるのだろうか――。つまるところこれらは、「正義」をめぐる哲学の問題なのだ。社会に生きるうえで私たちが直面する、正解のない――にもかかわらず決断をせまられる――問題である。哲学は、机上の空論では断じてない。金融危機、経済格差、テロ、戦後補償といった、現代世界を覆う無数の困難の奥には、つねにこうした哲学・倫理の問題が潜んでいる。この問題に向き合うことなしには、よい社会をつくり、そこで生きることはできない。アリストテレス、ロック、カント、ベンサム、ミル、ロールズ、そしてノージックといった古今の哲学者たちは、これらにどう取り組んだのだろう。彼らの考えを吟味することで、見えてくるものがきっとあるはずだ。ハーバード大学史上空前の履修者数を記録しつづける、超人気講義「Justice(正義)」をもとにした全米ベストセラー、待望の邦訳。

◆宮台真司氏推薦文(帯表4):1人を殺すか5人を殺すか選ぶしかない状況に置かれた際、1人殺すのを選ぶことを正当化する立場が功利主義だ。これで話が済めば万事合理性(計算可能性)の内にあると見える。ところがどっこい、多くの人はそんな選択は許されないと現に感じる。なぜか。人が社会に埋め込まれた存在だからだ――サンデルの論理である。/彼によれば米国政治思想は「ジェファソニズム=共同体的自己決定主義=共和主義」と「ハミルトミズム=自己決定主義=自由主義」を振幅する。誤解されやすいが、米国リバタリアニズムは自由主義でなく共和主義の伝統に属する。分かりにくい理由は、共同体の空洞化ゆえに、共同体的自己決定を選ぶか否かが、自己決定に委ねられざるを得なくなっているからだ。正義は自由主義の文脈で理解されがちだが、共和主義の文脈で理解し直さねばならない。理解のし直しには、たとえパターナル(上から目線)であれ、共同体回復に向かう方策が必要になる――それこそがコミュニタリアンたるサンデルの立場である。

◆目次:
第1章 正しいことをする
第2章 最大幸福原理――功利主義
第3章 私は私のものか?――リバタリアニズム(自由至上主義)
第4章 雇われ助っ人――市場と倫理
第5章 重要なのは動機――イマヌエル・カント
第6章 平等をめぐる議論――ジョン・ロールズ
第7章 アファーマティブ・アクションをめぐる論争
第8章 誰が何に値するか?――アリストテレス
第9章 たがいに負うものは何か?――忠誠のジレンマ
第10章 正義と共通善
謝辞
原注

◆著者紹介(カバーソデ):マイケル・サンデル――1953年生まれ。ハーバード大学教授。ブランダイス大学を卒業後、オックスフォード大学にて博士号取得。専門は政治哲学。2002年から2005年にかけて大統領生命倫理評議会委員。1980年代のリベラル=コミュニタリアン論争で脚光を浴びて以来、コミュニタリアニズムの代表的論者として知られる。主要著作に『リベラリズムと正義の限界』、"Democracy's Discontent"、"Public Philosophy"など。類まれなる講義の名手としても著名で、中でもハーバード大学の学部科目「Justice(正義)」は、延べ14,000人を超す履修者数を記録。あまりの人気ぶりに、同大は建学以来初めて講義を一般公開することを決定、その模様はPBSで放送された。この番組は日本では2010年、NHK教育テレビで『ハーバード白熱教室』(全12回)として放送されている。

★都内の書店員さんから聞いた話では、NHK教育テレビにて放送中の「ハーバード白熱教室」(2010年4月4日~6月20日、毎週日曜18:00~19:00、全12回)の影響で、原書『Justice』がビジネスマンに良く買われており、このたび刊行された同書の翻訳『これからの「正義」の話をしよう』は発売早々に重版決定とのことです。さらに、サンデルの唯一の既訳書だった勁草書房の『リベラリズムと正義の限界』(菊池理夫訳)も重版がかかり、某オンライン書店で相当売れているのだとか。勁草書房では来月『民主政の不満――公共哲学を求めるアメリカ(上)手続き的共和国の憲法』(金原恭子+小林正弥監訳)が発売予定とのこと。勁草書房のウェブサイト上の「読書案内」ではこの近刊の内容紹介や、勁草書房の番組関連書籍、「現代哲学の見取図」や「現代哲学 総合ブックガイド」といった各種PDFが公開されていて、英米の分析哲学のキーパーソンや訳書、研究図書を把握するうえでたいへん有益です。

★NHK教育で放映されている「正義」をめぐるハーヴァード大学でのくだんの講義風景をご覧になった方はご存じかと思いますが、サンデル教授の講義は非常にテンポがよく、議論に取り上げる実例は具体的かつ明快で、聴衆とのやりとりも活発。さすがに一流大学の名講義です。日本語字幕や吹き替えはありませんが、YouTubeのハーヴァード・チャンネルでは講義の動画が公開されていますし、ハーヴァード大学ではサンデルの正義論講義の公式サイトも開設しています。まあとにかく大きな注目を浴びている講義なのです。この講義を書籍化した『これからの「正義」の話をしよう』は講義の口調を一字一句漏らさず転写したような講義録「そのもの」ではありませんが、講義のエッセンスを満載した書き下ろしになっています。



★一言で言えば、『これからの「正義」の話をしよう』は、日本でも近い将来「2010年最大の哲学書ヒット作」と目されるようになってもおかしくない新刊です。政治状況の混迷が続けば続くほど、こうした本の需要は高まっていくでしょう。本書を真摯に読む政治家がこの国にいるといいのですが。たとえ政治家が読まなくても、ビジネスマンが本書を読んでいるというだけでマシではあります。【10年5月31日追記:「文化通信」速報版によれば『これからの~』は発売5日で10刷5万部に達したそうです。すごいことになってきました。

NHK教育のテレビ放送で話題沸騰、サンデルの名講義のネタ本が早川書房より刊行_a0018105_23204043.jpg

★なお、書影の左手は、現在は勁草書房から刊行されているサンデルの『リベラリズムと正義の限界』(菊池理夫訳)の、以前の版『自由主義と正義の限界』 第2版(三嶺書房、99年3月/初版92年11月)です。三嶺書房さんは2003年までの刊行物が確認できますが、現在はすべての出版物が流通していないようです。

★最後に、『これからの「正義」の話をしよう』の編集担当者Tさんは先月こんな魅力的な新刊も手掛けておられます。

イマココ――渡り鳥からグーグル・アースまで、空間認知の科学
コリン・エラード(Colin Ellard:1958-)著
渡会圭子訳 早川書房 10年4月 本体1,900円 四六判上製カバー装341頁 ISBN978-4-15-209126-0

◆版元紹介文より:ヒト独自の空間認知システムは、GPSなどのナビ技術や、都市/建物/ウェブ空間設計にどう反映されているのか。またこうした人工空間は、ヒトの行動や思考にどう影響するのか。斯界の第一人者が、ウェブ時代の空間認知研究を完全ナビゲート! 補論:濱野智史「「アーキテクチャ」について」(濱野智史氏は『アーキテクチャの生態系』著者)

★エラードの空間認知研究は、これまでの空間論、空間の政治学や空間の社会学との関連性のもとに読むとさらに興味深くなると思います。空間論はこれまでは主に都市論や地理学と結びついて、たとえばデヴィッド・ハーヴェイ、マニュエル・カステル、エドワード・ソジャ、イーフー・トゥアンといった論客がいます。さらにはサスキア・サッセン、ジェーン・ジェイコブズ、マイク・デイヴィスなども含めてもいいのかもしれません。あまり一括して書棚で扱われることはないものの、非常に豊かな学際的領域です。ここ20年ほどで空間論はヴァーチャル・リアリティをも対象としており、M・クリスティーヌ・ボイヤーやウィリアム・J・ミッチェルなどの都市論は日本でも翻訳されていますね。

★さらに言えば『イマココ』はもともとジェイムズ・J・ギブソンやヤーコプ・フォン・ユクスキュルに親しんできたような読者だけでなく、ポストメディア論の系譜の線で読んでもいいと思います。デリック・ドゥ・ケルコフ、マヌエル・デ・ランダ、ニコラス・ネグロポンテ、フリードリヒ・キットラー、レジス・ドブレ、はたまたキャス・サンスティーン、ニクラス・ルーマン、ヴィレム・フルッサー、ベルナール・スティグレールを読んできた読者にとっても示唆的で面白いかもしれません。

by urag | 2010-05-23 22:24 | 本のコンシェルジュ | Comments(0)


<< 6月下旬刊行予定:尾崎大輔写真...      マイク・デイヴィス『スラムの惑... >>