2010年 05月 15日
いまから一年ほど前、09年4月22日に行われた東京外国語大学出版会の発足記念特別シンポジウム「人文学の危機と出版の未来」にパネラーとして出席した際、私は「ゼロ年代の人文系小規模出版社」「インターネットと人文系小規模書籍出版」「業界再編期の人文書販売」の三つのテーマで簡単な報告を行いました。その中で、自己紹介も兼ねて概観した「ゼロ年代の人文系小規模出版社」で、私が挙げたのは以下の出版社です。 ●「ゼロ年代の人文系小規模出版社」 月曜社:2000.12.~ 株式会社批評空間:2001.2.~2002.8.(代表・内藤裕治さん:02年5月19日死去、享年38歳) トランスビュー:2001.4.~ 双風舎:2003.9.~★ 書肆心水:2004.8.~★ 洛北出版:2004.9.~ 左右社:2005.4.~★ ※現在はJRCさんだけでなく、他取次との口座も開かれています。 有志舎:2005.11.~★ ミシマ社:2006.11.~ ★:JRC(人文社会科学書流通センター)一手扱い。東京外国語大学出版会も。 ※大学出版近年の創立:麗澤大学出版会99.3.~、上智大学出版99.3.~、東京学芸大学出版会01.11.~、聖徳大学出版会02.9.~、弘前大学出版会04.6.~、武蔵野大学出版会05.4.~、東京農工大学出版会06.11.~、東京外国語大学出版会08.10.~ そして今年(厳密に言えば来年)から「10年代」が始まります。以下に紹介する新刊を先月刊行された閏月社(じゅうげつしゃ)さんは昨年一月に松本晴子著『日本民謡における拍の伸び縮みと聴取に関する研究』を刊行した新しい出版社で、5年前から編集プロダクションとして活躍され、このたびハヴロック・エリス著『ニーチェ入門』を刊行されました。 ニーチェ入門――生を肯定する哲学 ヘンリー・ハヴロック・エリス(Henry Havelock Ellis:1859-1939)著 山本規雄(やまもと・のりお:1967-)訳 閏月社 10年4月 本体2,800円 四六判上製カバー装168頁 ISBN978-4-901477-01-0 帯文より:19世紀末ロンドン、“ニーチェ主義”誕生。死を間近にした哲人を現代のファウストに見立て、豊富な引用でその手釣りを解き明かす。時代の熱を湛えながら、今なお光芒を放つ古典的入門書。 帯文(裏)より:20世紀を通じ、変幻自在に姿を変えてきたニーチェの哲学――その原点を、同時代を生きた鬼才が的確に論じる。1896年、世紀末のムード漂うロンドン。A・シモンズを編集長に迎え、A・ビアズリーのアート・ディレクションにより発刊された、伝説の雑誌“Savoy”。綺羅星のごとき記事の中でも、とりわけ異彩を放ったのがH・エリスの連載「ニーチェ」である。時同じくして、ニーチェはドイツで狂気の臥所にありながら、その思想はルー・ザロメの紹介によって、にわかに流行の兆しを見せはじめる……希代の〈セクソロジスト(性科学者)〉エリスによる、秀逸な思想案内。 装丁造本も本文レイアウトもとても美しい本です。特に、購入された方は、カバーとオビを取って本体の表紙の感触をじっくり味わってみてください。ちょうど今、ちまたでは、ディスカバー21の『超訳 ニーチェの言葉』が売れているそうですが、書店店頭にニーチェ・コーナーをつくるなら、この本も置いてあると嬉しいですね。閏月社さんの本はJRC(旧称「人文・社会科学書流通センター」)さんの一手扱いとなりますので、書店さんはJRCさんを経由して帳合取次から仕入れるかたちになります。 JRCさんはご存知の通り、鈴木書店にお勤めだった方々が起こされた会社です。取次でもあり、営業代行でもあり、小売書店でもあります。「ゼロ年代の人文系小規模出版社」でも紹介した通り、個性豊かな数々の新興小規模出版社が「一手扱い」でお世話になっています。弊社もたまに「御社はJRC扱いでしょ?」と聞かれることがありますが、それだけ人文系の新興小規模出版社がJRCさんにだいたいはお世話になっているという印象が強いのでしょうね。おそらくは「10年代の人文系小規模出版社」もまた、JRCさんにお世話になるところが多いのかもしれないな、と想像しています。 閏月社さんでは今後、ポール・ヴァレリー/アンドレ・ブルトン+ポール・エリュアール著『思考の表裏』という本も刊行予定だそうです。同社ウェブサイトの内容紹介にはこうあります。「「書物は人間と同じ敵を持つ。曰く、火・湿気・虫・時間。そうしてそれ自らの内容」とヴァレリーが書けば、ブルトン/エリュアールはこれに対抗、「書物は人間と同じ友を持つ。曰く、火・湿気・虫・時間。そうしてそれ自らの内容」と返す。「思想には両性が備わる。それは自ら受胎し、生育する」と記せば今度は「思念には性がない。だから繁殖しない」と応じる──“フランスの知性”とまで讃えられた象徴派詩人に、シュールレアリストの二人が挑み、思考の逆真性を突きつける! 39対の断章からなる、箴言の応酬」。とても楽しみですね!
by urag
| 2010-05-15 19:12
| 本のコンシェルジュ
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