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2010年 05月 10日

コジェーヴの遺稿『権威の概念』が法政大学出版局より刊行

第二次世界大戦の真っ最中、1942年にドイツ占領下のフランスで書かれたコジェーヴの重要な論考『権威の概念』が公刊されたのはとても遅く、死後30年以上経った今世紀、2004年になってからのことでした。『法の現象学』同様、たいへん示唆的なこの遺稿が、最近ついに邦訳されました。

権威の概念
アレクサンドル・コジェーヴ(Alexandre Kojève:1902-1968) 著 今村真介訳
法政大学出版局 2010年4月 本体価格2,300円 四六判上製カバー装204頁 ISBN978-4-588-00935-8

◆帯文より:権威とは何か? 人類史上、あらゆる国家や政治権力を基礎づけてきた神秘の力の由来とは? パリでの伝説的講義で知られるロシア人哲学者が、1942年にドイツ占領下で書き上げた本書は、父・指導者・主人・裁判官という四つの権威類型の分析を通じて、きわめて独創的で普遍的な政治理論を構想しようとする。長らく未刊であった第一級の哲学的ドキュメント。

原著:La notion de l'autorité, Paris, Gallimard, 2004.

コジェーヴの遺稿『権威の概念』が法政大学出版局より刊行_a0018105_2303637.jpg★訳者の今村真介さん(1971年生まれ)は、今村仁司さん(1942-2007)のご子息で、お父上との共著に『儀礼のオントロギー――人間社会を再生産するもの』(今村仁司+今村真介著、講談社、2007年3月)があります。早稲田大学法学部で非常勤講師を勤めておいでです。

★コジェーヴの本名は知っての通りコジェヴニコフです。十月革命の折にロシアを離れ、ドイツではソロヴィヨフ研究、フランスではヘーゲル『精神現象学』講義などの実績があります。後者は特に、フランス現代思想の発展の起爆剤になったもののひとつで、バタイユが彼の講義を聞いて打ちのめされるほど衝撃を受けたという逸話は有名です。アメリカの政治学者フランシス・フクヤマの出世作『歴史の終わり』(知的生き方文庫、全3巻、1992年)が議論の下敷きにしたのも、コジェーヴの独特なヘーゲル講義で、これも有名な話。コジェーヴは戦後、フランスの官僚としてEUへの道を開き、68年にブリュッセルで客死します。死因は通商会議の最中の心臓発作でした。コジェーヴの生涯については浩瀚な伝記、ドミニック・オフレ『評伝アレクサンドル・コジェーヴ』(今野雅方訳、パピルス、2001年7月)に詳しいです。

★アレクサンドル・コジェーヴ(Alexandre Kojève:1902-1968)既訳書

『概念・時間・言説――ヘーゲル〈知の体系〉改訂の試み』(三宅正純+根田隆平+安川慶治訳、法政大学出版局、2000年11月)
『法の現象学』(今村仁司+堅田研一訳、法政大学出版局、1996年5月)
『ヘーゲル読解入門――『精神現象学』を読む』(上妻精+今野雅方訳、国文社、1987年10月)

★上記のほかにもコジェーヴの論文を収録している本がいくつかありますが、特記すべきはレオ・シュトラウス『僭主政治について』(上下巻、石崎嘉彦+面一也+飯島昇藏+金田浩一訳、現代思潮新社、2006-2007年)の下巻に収められた、シュトラウス=コジェーヴ往復書簡です。

★国文社版『ヘーゲル読解入門』は大著ですが、実は抄訳。上妻=今野訳はぐいぐい読ませる名訳なので全然気になりませんけれども。しかしいつかは全訳を読んでみたいものですね。

★ちなみに今月(2010年5月)、法政大学出版局さん(3月31日にサイトリニューアル)ではスティグレールの『技術と時間』の第2巻「方向喪失」がいよいよ刊行されるとのことです。

by urag | 2010-05-10 02:37 | 本のコンシェルジュ | Comments(0)


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